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「7年目、6月中旬『氷山』の記録」

 今、目の前で起きた出来事は信じがたかったが、自分の伸ばした腕の先には確かな冷気が漂っていた。


(本当にできた…!)


 はじめてのことで、理想通りにはできてないけど本当に魔法が発現した。

 夢を見るような興奮が、私の胸に湧き上がる。


(そっか、夢の中だから自分が思えば何でもできるようになるのか)


 改めて認識した非現実を整理しようと自然と思考が行われる。

 それにしても、不真面目、カエル人間、礼儀知らずと、登場するのはことごとく気分の悪くなるような人物ばかりで、余程ストレスが溜まってたんだと思い返す。


(待って、思ったように魔法が発現できるなら…)


 あの人達は「何か」を起こした際に、よくファンタジーでイメージする呪文のようなことを必要としていなかった。

 つまり、フロードさんが言っていた「属性」と「型」と「指向」さえ正しければ、おそらく魔法自体は発現する。

 それなら先程まで詠唱を行い、具体的なイメージを固めながら一つ一つ魔法を行使していたけれど、それを省略できるかもしれないと思い付く。


(「手をかざした先」に「冷気を集めて」「雪の風を吹かせる」イメージ…)


 頭の中で故郷である長野の冬を思い出し、時に厳しい吹雪が街を覆う様子を鮮明に想像する。

すると、まるで手のひらから視界を奪うほどの吹雪が吹き荒れるような魔法が発現し、周囲一帯を埋め尽くした。


「やったっ!」


 自分で思い描いた通りの、あるいはそれ以上の効果が即座に実現した。

 夢だとしても少しワクワクし、自信が沸いてくる。


 しかし、吹雪が止み視界が晴れると、周囲に雪の名残はあるものの、狙ったはず相手は驚いた様子を見せる反面、服装の乱れすらなく、影響を及ぼした様子は微塵も感じられなかった。


「へぇー!さっきまでぶつぶつ言ってたのに、もうなくても魔法使えちゃうんだ?すごいじゃん才能あるよ!」


 純粋に褒めて貰えると嬉しい、と一瞬浮かれつつ、一応この人が敵だったと我に返る。


「もっと勢いよく来なよ!それじゃボクを倒せないよ?」


 明らかに挑発だったが、気が付けば私自身もっとできないかと、高みを目指し始めていた。

 

「じゃあ遠慮なく!」


 吹雪がダメならば、もっと形があるものを試す。

 集中しようと目を瞑り意識を暗闇に閉ざす、両手を頭上に構え、氷山を生成するイメージを固める。

北極を覆う氷の塊、自分の真上に冷えた海面があり、そこで水がじわじわと塊に変わる様を想像する。


「すげえ…」


 隣にいたはずだが、遠く小さく感じる星見の声。

 瞑想状態にあるため周囲の景色は確認できないが、もはや外野と化したその声が自分の想像が創造になっていると確信し、ふふんと得意気になる。


 そして目を見開き対象の位置を定めると、自身の何倍もある巨大な氷塊を野球選手の投げるレーザーボールのようなスピードで真っすぐ。


 両の腕を振り下ろし、放つ。

 思ったような軌道を、思った以上の氷の山が風のように飛んでいく。


 次の瞬間、その氷塊は自分を襲った。


「きゃああああ!」


 予期しない魔法の動きに対処できず、その勢いを全身で受けてしまう。

 氷山に弾き飛ばされ、宙に体が舞い、地面に打ち付けられる。


 うしろの木々がへし折られる音、そして氷の破片の一部が地面に転がる自分の視界にまで散らばる。

同時に今日の講義の終わりを告げるチャイムが、響き渡る。


「ちょっとワクワクしたけどそんなもんだよねー…ま、楽しかったよ!」


 地に伏した私に向けられたであろう声は、何事もなかったような声色で不敵にそう告げる。


「ハヤテこの後どっか行くー?」


 失われる意識の中で最後に聞こえた言葉からは、もう彼がこちらに対する興味を失っていたことを示していた。

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