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第九話:蘇りの理由

 目を覚ましたセリオは、しばらく無言で天井を見つめていた。


 ——今の夢は、何だったのか?


 過去の記憶。だが、違和感があった。自分の視点ではなく、まるで別の誰かの視点から見ていたような感覚。


 そして、リゼリアの最後の言葉。


 「お前を、私は手放さない」


 その意味を考えていると、部屋の隅に座るリゼリアと視線が合った。


「目が覚めたのね」

「ああ……少し、妙な夢を見た」

「そう」


 リゼリアは微笑んだが、それ以上は何も聞かない。


 だが、セリオの方は聞きたいことが山ほどあった。


 自分はなぜ蘇ったのか。なぜ、何度も復活しているのか。


 ——そして、リゼリアは何を考えているのか。


「……お前に聞きたいことがある」

「何かしら?」


 リゼリアは静かに問い返す。


「お前は、俺を何度も蘇らせているらしいな」

「ええ、そうよ」


 あっさりと認めるリゼリアに、セリオは一瞬言葉を失う。


 ならば、次の問いをぶつけるだけだ。


「なぜだ?」

「お前を魔界に迎えるため」


 迷いなく、リゼリアはそう答えた。


「……俺を、魔界に?」

「ええ。セリオ、お前は生前、人間のために生き、人間のために死んだ。ならば、今度は魔族のために生きてもいいと思わない?」

「……何を言っている」


 セリオは顔をしかめる。


「俺は、人間として生まれ、人間として戦った。それが——」

「お前はもう人間ではないわ」


 リゼリアの声が、静かに響いた。


「今のお前は、魂だけの存在。魔界で蘇った時点で、人間だった頃とは違うのよ」


 セリオは言葉を失った。


 それは、痛いほど理解している事実だった。


 鼓動はなく、血も流れず、温かさも感じない。


 ——俺は、本当に人間なのか?


「……それでも、俺は——」

「セリオ」


 リゼリアが、ふっと微笑んだ。


「お前は何度も死んで、そのたびに蘇った。でも、その記憶は残っていない……なぜかしら?」

「……それを聞きたいのは、こっちの方だ」

「魂の定着が不完全だからよ」


 リゼリアは、静かに言葉を紡ぐ。


「私は何度もお前を蘇らせた。でも、そのたびに完全には戻らなかった。記憶が欠落し、魂が安定しない。それは……本来ならあり得ないことなのよ」

「……本来なら?」


「ええ。普通、ネクロマンシーで蘇った者は、完全な記憶を持っているか、あるいは人格の崩壊が起こるかのどちらか。けれど、お前はそのどちらでもない。魂の根幹が、生前の“人間だった頃”の状態を維持しているのよ」


「……つまり?」

「お前の魂は、まだ“人間”としての自分に執着しているの。だから、魔界で生き続けるためには、もう一度“新しく生まれる”必要があるわ」


 リゼリアの赤い瞳が、じっとセリオを見つめた。


「お前は、どうするの?」


 その問いは、セリオにとって初めての“選択”だった。


 ——人間としての過去に縋るのか?


 ——それとも、魔界で新たな生を受け入れるのか?


 セリオは、答えを出さなければならなかった。

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