表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/89

第九話:混沌の囁き

 魔界の夜は深い闇に包まれていた。

 その闇の中に紛れるように、一つの影が静かに微笑む。


「クク……実に楽しいことになってきたわねぇ」


 しなやかな肢体を闇に溶け込ませるようにして、妖艶な闇妖精シルヴィス・ノクターンは月明かりを背に微笑んだ。彼女の漆黒の翼が静かに揺れ、妖しく光る瞳が魔界の戦乱を映している。


「魔王が死に、エルミナが玉座を狙い、アルゼリオンがそれを阻む……」


 シルヴィスは、指先で虚空をなぞるように動かしながら、楽しげに呟いた。


「それだけじゃないわ。ヴェルミリオも動き出したし、ヴァルゼオはどちらにつくのかしら? それに——セリオも」


 セリオの名前を口にすると、シルヴィスは小さく笑った。


「英雄が魔界に根を下ろすなんて、本当に面白いことをするわね。混沌の中で、彼はどんな選択をするのかしら?」


 シルヴィスは長年、魔界各地で反乱を煽り続けてきた。彼女にとって秩序や安定など退屈なものにすぎず、むしろ混乱と破壊こそが至高の娯楽であり、生きる意味であった。


 今、魔界はまさにその混沌の渦の中にある。

 彼女の手によるものだけではない。エルミナ、アルゼリオン、ヴェルミリオ、セリオ——それぞれが思惑を抱き、ぶつかり合い、魔界を戦場へと変えつつあった。


「さて、私はどこにちょっかいを出そうかしら」


 シルヴィスは空へ舞い上がると、黒い羽根を散らしながら魔界の大地を見下ろした。


 エルミナの軍はアルゼリオンの進軍を警戒し、戦の準備を進めている。

 一方、アルゼリオン軍はヴァルゼオをスパイとして送り込み、エルミナの内情を探ろうとしている。

 ヴェルミリオは、自らが王となることを避けつつ、影響力を保つための策略を巡らせていた。

 そして——セリオ。


「ふふ……あなたがどう動くかが、この戦乱の鍵になるのよ」


 シルヴィスは目を細め、セリオの館がある方向を見つめた。

 彼は今のところ、どちらの陣営にも明確にはついていない。しかし、その力を求める者は多い。アルゼリオンも、エルミナも、ヴェルミリオも——そしてシルヴィス自身も。


「……セリオ、あなたはどちらにつくの?」


 シルヴィスは微笑みながら、闇へと溶け込むように姿を消した。


 魔界動乱の渦は、さらに深まりつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ