第三話:宣戦布告
──魔王城の広間に戦の気配が漂っていた。
アルゼリオンの背後には、魔界最大の軍閥「黒鎧軍」の将兵たちが控え、今にも武器を抜き放たんとしている。一方、エルミナに仕える魔族貴族たちは動揺しつつも、彼女の出方を伺っていた。
「俺は問う。貴様は、このアルゼリオンに従い、魔界のために身を引くか?」
老将軍の声音は威圧的で、広間に響き渡る。
しかし、エルミナは涼しげな表情を崩さない。
「身を引く? いいえ、アルゼリオン。私は魔王の血を引く者として、この玉座を継ぐわ。むしろ、そちらこそ私に忠誠を誓うべきではなくて?」
「戯言を……!」
アルゼリオンが重厚な甲冑を揺らしながら一歩踏み出す。
「ならば、貴様を力で引きずり下ろすのみ!」
その言葉と同時に、黒鎧軍の兵が一斉に剣を抜く。
王城の衛兵たちも迎え撃つ構えを取るが、その士気は低い。アルゼリオンの軍勢を相手にするには、あまりにも戦力が不足していた。
──しかし、エルミナはわずかに笑った。
「アルゼリオン。あなたは軍事力に絶対の自信を持っているようだけど……私はあなたを倒すための策をすでに講じてあるのよ」
「何?」
その瞬間──王城の外から、轟音が響き渡った。
黒鎧軍の兵たちがざわつく中、広間の扉が開き、一人の魔族が駆け込んでくる。
「報告! 王城周辺に未知の魔族の軍勢が集結しつつあります!」
アルゼリオンの表情が一瞬険しくなる。
「何だと……?」
エルミナは優雅に髪をかき上げ、にこりと微笑んだ。
「私に忠誠を誓う者は、あなたが思っているよりも多いのよ。アルゼリオン」
彼女の言葉を合図にするかのように、王城の外で魔力の閃光が走った。
爆発音、剣戟の音、悲鳴。
エルミナが密かに集めていた魔族たちが、黒鎧軍の包囲網を突破しつつあった。
「貴様……いつの間に!」
「あなたが軍備を整えていたように、私もそれ相応の準備をしていたのよ」
アルゼリオンは一瞬逡巡する。戦力差を考えれば、この場で無理に戦端を開くのは得策ではない。
──このままでは、長期戦になる。
「……なるほどな」
アルゼリオンは剣を鞘に収め、背を向けた。
「ここで決着をつける必要はない。だが、俺は貴様を魔王とは認めん」
彼はエルミナを振り返り、冷たい視線を向ける。
「俺は、魔界全土に俺を『新たな王』として認めさせる。貴様の野望を砕くためにな」
「ふふ、やれるものならやってみなさい。この戦いは、私の勝利で終わるわ」
こうして、魔界を二分する戦乱の幕が、正式に切って落とされた。




