表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/89

第三十八話:燃え上がる畑

 魔界の夜は静寂と闇に包まれていた。だが、館の周囲に広がる畑には穏やかな空気が流れている。

 セリオは鍬を壁に立てかけ、手についた土を払いながら空を仰いだ。


「……そろそろか」


 ヴェルミリオの警告が頭をよぎる。


 エルミナの手の者が、館と畑を襲撃する。


 セリオは武器を持たず、ただそこに立っていた。襲撃の気配を感じながらも、静かに待つ。

 風が冷たくなった。


 ——そして、闇の中から気配が溢れ出す。


 まずは”影”が動いた。

 黒い霧のようなものが畑の隅に広がる。それと同時に、不自然な音が響いた。


 ギィ……ギィ……


 空気が歪み、そこから数体の魔族が姿を現した。

 長身の魔族が一歩前に出る。黒い外套を羽織った、高位魔族らしき男。


「やはり気づいていたか、“アンデッドの勇者”よ」


 セリオは目を細めた。


「お前はエルミナの部下か?」

「我らはヴァルグリム家に仕える者……命令に従うまでよ」


 魔族の男が手を振ると、背後に控えていた兵士たちが一斉に動き出した。

 彼らの中には、異形の姿をした者も混ざっていた。


 ——人間と魔族の融合体。


 かつて実験によって生み出された異形の存在。その身体は魔族の力を持ちながら、どこか不安定な魔力を帯びていた。


「畑を焼け。館の防御が崩れたら、勇者を引きずり出せ」


 その言葉とともに、炎の魔術が放たれた。


 ゴォッ!


 炎が畑を舐めるように広がる。暗黒麦や夜光豆が炎の中で弾け、黒煙が立ち上る。

 セリオは無言で前に出た。


 その瞬間——


 ガゴォン!


 館の周囲に並んでいたガーゴイル像が動き出した。

 リゼリアが施した防衛術式が発動し、石像が敵意を持つ者に向かって飛びかかる。


 「ちっ……!」


 魔族たちが迎撃態勢を取るが、ガーゴイルの動きは速い。


「リゼリアの仕業か……厄介な!」


 魔族の男が舌打ちし、杖を振るった。

 セリオは彼を見据え、静かに口を開いた。


「畑を焼くのは構わんが——ここは、俺の家だ」


 その言葉の直後——セリオの手が、深い闇に包まれた。


 ——戦闘の幕が、開く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ