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第七話:死者の眠り

 魔界の夜は、生者の世界とは違う静寂に包まれている。


 風はほとんど吹かず、月もない漆黒の空には、淡く光る霊火が漂っていた。ネクロポリスの拠点——死者のための居城とでも呼ぶべき場所の一室で、セリオはベッドに腰を下ろしていた。


 眠くはない。だが、リゼリアは「横になってみたら?」と勧めてきた。


「……ゴーストに睡眠は必要なのか?」


 セリオの問いに、リゼリアは椅子に座りながら微笑んだ。


「必要というわけではないけれど、長く活動を続けると魂の安定が崩れることがあるの。だから、定期的に休息を取るのは悪くない選択よ」

「魂の安定?」

「簡単に言えば、精神の摩耗を防ぐためのものよ。お前は肉体を失っているでしょう? だからこそ、意識を保つためには適切な休息が必要なの」

「……そんなものか」


 セリオは渋々とベッドに背を預けた。


 ベッドは柔らかすぎず、程よい硬さだった。


「この部屋……妙に人間らしい造りだな」

「ええ。お前がここで過ごしやすいように、整えておいたのよ」


 リゼリアの声は、どこか穏やかだった。


 セリオは目を閉じる。


 思えば、眠るという行為すら、いつ以来だろうか。


 戦場では浅い眠りを繰り返し、死の直前には意識が途切れるように落ちた。蘇ってからは、休むという概念すら忘れていた。


 ——だが、今の自分は“生きて”いるのか?


 肉体はない。心臓の鼓動もない。


 それでも、こうして意識があり、記憶がある。


「……死者が眠れば、何を見るんだろうな」


 独り言のように呟くと、リゼリアがくすくすと笑った。


「試してみればいいじゃない。もしかしたら、生前の夢を見られるかもしれないわよ?」

「……それは、あまり気が進まないな」


 セリオは薄く笑いながら目を閉じる。


 意識がゆっくりと沈んでいく——その感覚は、思ったよりも心地よかった。


 死者にも、眠りは必要なのかもしれない。


 そう思いながら、セリオは静かに目を閉じ、深い闇へと身を委ねた。

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