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第三十一話:静寂の中で

 セリオの館に静寂が訪れた。盗賊団の残党を片付け、アンデッド化させたことで、襲撃の危機はひとまず去った。セリオはいつも通り館の見回りを済ませ、自室へと戻っていった。

 一方、リゼリアもまた、長い一日を終え、館の寝室へと向かっていた。今日は珍しく研究所へ戻らず、この館で休むことに決めていた。理由は特にない……と、本人は思いたかったが、結局のところセリオが気になっているのだろう。


「お前の寝室、少し借りるわね」


 そう言って部屋に足を踏み入れた瞬間、リゼリアは違和感を覚えた。かすかに聞こえる規則正しい寝息。見慣れた寝室のベッドには、すでに誰かが潜り込んでいる。薄暗がりの中、その小さな人影が誰なのかを認識するのに時間はかからなかった。


「……カイ?」


 黒髪のハーフエルフの少年は、大きなベッドの中央で無防備に眠っていた。ふかふかの枕に顔を埋め、微かに眉をひそめながら、時折寝言のように何かを呟いている。

 リゼリアは呆れたようにため息をついた。


「まったく……どうしてここで寝ているのかしら」


 カイがこの館を気に入っているのは知っていたし、転移門を使えばいつでも来られる。だが、よりによってセリオの寝室のベッドを占領するとは思わなかった。

 リゼリアはカイの額に手を当て、微かに魔力を流して状態を確認した。どうやら疲れ切ってそのまま眠ってしまったらしい。きっと、今日の騒ぎの中で興奮し、セリオのそばにいたくなったのだろう。


「……甘えん坊なんだから」


 困ったものだと思いながらも、その寝顔を見ていると、無理に起こすのも気が引ける。リゼリアは静かに首を傾げ、少し考えたあと、小さく微笑んだ。


「仕方ないわね……今日は特別よ」


 彼女はそっとカイの隣に腰掛け、カイが布団を抱え込んでいるのを見て、仕方なく自分もその端を引き寄せた。そして、セリオがこの光景を見たらどう思うかを想像し、くすりと笑った。


「まあ、どうせ私は毎晩お前と一緒に寝ていたのだし……問題ないわよね?」


 そう、小さく呟いた言葉は、誰にも聞こえなかった。

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