第三十話:新たな忠誠
静寂が戻った畑の中、魔族の盗賊団は完全に沈黙していた。
リゼリアの術によって蘇った亡者たちが、元の主であった盗賊たちを見下ろしている。
「……ふぅん。悪くないわね」
リゼリアは満足げに微笑み、軽く指を鳴らした。すると、アンデッドと化した盗賊たちが一斉にひざまずく。
「お、おい……あいつら……」
カイが物陰からそっと顔を出し、驚き混じりの声を漏らした。彼は戦闘には加わらず、安全な距離で様子を見ていたのだ。
セリオは無言で剣を収める。戦いが終わった今、必要以上に剣を振るうつもりはない。
「で、お前たちはどうするのかしら?」
リゼリアは生き残った数名の盗賊に視線を向けた。彼らはアンデッドになった仲間たちの姿を前に、顔を引きつらせている。
「ひ……ひぃっ……!」
「た、助けてくれ……!!」
「もう盗みなんてしねぇ!こんなことになるなんて、思ってもみなかった……!!」
彼らは恐怖に震え、リゼリアに命乞いを始めた。
「まったく、浅はかね。魔界で生きる以上、力の序列を理解していなかったの?」
リゼリアは冷ややかに彼らを見下ろす。しかし、すぐに小さく肩をすくめた。
「まあいいわ。お前たちは好きにしなさい。ただし……」
リゼリアが杖を軽く振るうと、生き残った盗賊たちの身体に黒い紋様が刻まれる。それは微かに光を帯び、ゆっくりと肌に馴染んでいった。
「っ……な、なんだこれは!?」
「契約の印よ。これがある限り、お前たちは私に逆らえないわ」
リゼリアはさらりと言い放つ。盗賊たちの顔が青ざめる。
「そ、そんな……!」
「別に難しいことを言っているわけじゃないわ。ただ、私の監視下で、まともな生き方をするだけ。それが嫌なら、今すぐ死ぬ?」
リゼリアの指が軽く動くと、紋様が淡く光り、盗賊の一人が苦しげに喉を押さえた。
「わ、わかった!わかったから、命だけは……!!」
彼らは地面に伏し、震えながら頭を下げる。
「ふふ、賢明な判断ね」
リゼリアは満足そうに微笑んだ。
「さて、せっかく手駒が増えたのだもの。ちゃんと働いてもらわないとね」
※
夜明け前——
戦闘の後処理が終わり、セリオは館へ戻ることにした。アンデッド化した盗賊たちはリゼリアの命令のもと、彼女の研究所へと向かう。一方、生き残った盗賊たちは、監視付きで館周辺の労働を手伝うことになった。
「しかし、リゼリア。お前が盗賊を部下にするとはな」
セリオは肩を並べながら、彼女に問いかける。
「悪くない選択だと思わない? どうせ無駄死にするより、使い道があるほうが良いでしょう?」
「まあな」
セリオは苦笑する。リゼリアのやり方は容赦がないが、理に適っている。
「それに……」
リゼリアは少し目を伏せ、微かに笑う。
「お前が魔界で暮らすなら、守るべきものも増えていくでしょう? 使える駒は多いほうがいいわ」
セリオはそれを聞いて、しばし沈黙した。
守るべきもの——この館、畑、そしてここに住みついた魔族たち。リゼリアの言う通り、彼はもう単なる流浪のアンデッドではなくなっていた。
「……そうだな」
セリオは小さく頷いた。
こうして、館を狙った盗賊団はセリオとリゼリアによって完全に制圧され、新たな戦力として取り込まれることとなった。
——魔界でのスローライフは、まだ始まったばかりだ。




