第二十五話:夜光豆の収穫
魔界の夜は長い。空に浮かぶ黒い月が鈍く光を放ち、蒼白い霧が森の奥からゆっくりと立ち上っている。館の裏手にある畑では、豆の房がふくらみ、青白い光を帯びて揺れていた。
「そろそろ収穫時だな」
セリオは手にした籠を軽く揺すりながら、黒くしなやかな蔓を眺めた。夜光豆は魔界特有の作物で、夜になると莢が発光し、ほんのりとした光源にもなる。乾燥させて粉にすると魔力を増幅させる効果があり、リゼリアが研究材料として重宝していた。
「父さん!」
中庭の転移門が光を放ち、そこからカイが駆けてくる。黒髪を揺らしながら畑へと走り込み、セリオの隣に並んだ。
「母さんが『夜光豆が収穫の時期』って言ってたから、手伝いに来たよ!」
「……あいつ、俺より先に気づいていたのか」
苦笑しつつ、セリオは息子の成長を感じた。こうして自ら手伝いに来るあたり、やはり彼の中にも「責任感」は根付いているらしい。
「さあ、始めるか」
セリオが最初の莢に手を伸ばした瞬間、周囲の森の影がざわめいた。
「収穫、するの?」
木々の間から現れたのは、館の周囲に住み着いた植物系の魔族たちだった。肌は樹皮のように滑らかで、葉の髪を揺らしながら、興味深そうにこちらを見つめている。
「するなら、手伝う……?」
「いいのか?」
セリオが尋ねると、魔族たちは頷いた。彼らは人間の言葉を流暢に話せるわけではないが、最近は館の周囲での交流も増え、簡単な意思疎通はできるようになっていた。
「じゃあ、頼む」
セリオが言うと、魔族たちは手際よく蔓を絡め取り、莢を優しく摘み取っていく。カイも彼らの動きを真似しながら、慎重に豆を籠へと入れていった。
「……この豆、ほんのり温かいね」
「魔力が満ちている証拠だ。収穫したばかりのものは、灯りとしても使える」
実際に試すように、セリオはひとつの莢を手に持ち、高く掲げた。淡い青白い光が周囲をぼんやりと照らし、夜の畑を柔らかく包み込んだ。
魔族たちはその光をじっと見つめ、満足そうに微笑む。彼らにとって、この光はただの収穫物ではなく、命の循環そのものなのかもしれない。
「ねえ、父さん」
カイが小さな手で夜光豆を握りしめながら、ぽつりと呟いた。
「母さんも、これを見て喜ぶかな?」
「ああ。きっとな」
リゼリアは研究のために必要な素材としてこの豆を求めているが、それ以上に「セリオやカイが関わっている」ことを喜ぶに違いない。
「よし、あと少しだ。終わったら館に戻るぞ」
セリオの言葉に、カイと魔族たちは元気よく頷いた。
こうして、夜光豆の収穫は、魔界の静かな夜の中で、ゆっくりと進んでいった。




