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第十八話:畑に集う魔族たち

 セリオは今日も畑に立っていた。


 館の裏手に広がる小さな農地。黒々とした土が整えられ、端の方には前回植えた作物の芽が出始めている。

 魔界の土壌は人間界とは違うが、リゼリアの助言もあり、適した作物を選べばしっかり育つことが分かってきた。

 水やり用の魔法陣も作ったおかげで、管理もしやすくなっている。


「……よし、今日は畝を増やすか」


 セリオが鍬を手に取り、耕し始めたその時だった。


 ——ササッ。


 茂みの中から、何かがこちらを伺っている気配がする。


(またか……)


 セリオはすでに気づいていた。

 最近、この畑を興味深げに見つめる視線が増えている。

 主に、館の周囲に住み着いた植物系の魔族たちだ。


 もともとこの辺りには植物を身に纏う魔族が多かったが、館の魔力に引き寄せられ、最近では完全に定住してしまったらしい。

 彼らは人型でありながら、体の一部が蔦や花、枝葉になっており、中には木の精霊に近いものもいる。


 最初はセリオの様子を遠巻きに眺めるだけだったが、最近では好奇心が勝っているのか、距離がどんどん近くなってきた。


「……そんなに見ていたいなら、勝手にしろ」


 セリオは視線を感じつつも、気にせず鍬を振るう。

 すると——


「やはり、耕すのか……?」


 囁くような声がした。

 見ると、身の丈ほどの蔦を背負った魔族が、畑の端からじっとこちらを見ている。


「……そうだが?」

「なぜ?」

「作物を育てるためだ」


 セリオが淡々と答えると、その魔族は周囲の仲間たちと視線を交わした。


「やはり……。人間の勇者が、耕している……」

「珍しい……いや、異様……」

「しかし、なんだか……楽しそう……」

「いや、辛そうにも見える……」


 彼らは囁き合いながら、じりじりと畑に近づいてきた。


(……手伝う気はないのか?)


 セリオがそう思いながら鍬を振るうと、植物系の魔族たちはさらに身を乗り出した。


「勇者……どうやって、そんなに土を掘る……?」

「力が必要……?」

「道具、いるのか……?」


 セリオは少し考えた後、鍬を一本、彼らの方に放った。


「試してみるか?」


 植物系の魔族たちは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに興味津々といった様子で鍬を拾い上げた。


「おお……これが……」

「なるほど、こうやって……」

「こう?」


 ひょろりと長い手をした魔族が、ぎこちなく鍬を振るう。

 だが、力加減が分かっていないのか、鍬の先が地面に弾かれた。


「む……難しい……」

「これをずっとやるのか……?」

「やはり勇者、異常……」


 魔族たちは畑仕事の大変さを理解したのか、しばらく鍬を眺めた後、そっと地面に置いた。


「私たちは……水を運ぶ方がいい……」

「陽の加減を調整する……」

「土を柔らかくする……」


 勝手に作業内容を決めた彼らは、すぐに動き始めた。

 魔力を込めて水を引く者、葉の形を変えて影を作る者、根を伸ばして土を掘り返す者……。

 それぞれが自分にできることで畑を整えようとしている。


「……まあ、好きにしろ」


 セリオはそう呟くと、再び作業を再開した。

 植物系の魔族たちの助けが加わり、畑は少しずつ整えられていく。


 こうして、館の周りの魔族たちとの奇妙な共存が、ゆっくりと始まっていった。

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