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第十七話:怪我の確認

 館の寝室。

 カーテン越しに差し込む淡い光が、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


 ベッドに腰掛けるセリオは、傷が塞がった肩を軽く回してみる。

 ヴァルゼオとの戦いで受けた剣傷も、アンデッドの回復力とリゼリアの治療魔法によって、ほとんど痕が残らない程度に治っていた。


「もう平気だな」

「……本当にそうかしら?」


 扉の向こうから控えめな足音が聞こえたかと思うと、リゼリアが寝室に入ってきた。

 彼女の白い髪はいつもより柔らかく揺れ、その赤い瞳はじっとセリオを見つめている。


「どうした?」

「お前の傷の状態を確認しに来たのよ」

「もう治ったぞ」


 セリオが肩を回してみせると、リゼリアはふむ、と小さく頷いた。


「……とはいえ、ちゃんと触って確認しないと安心できないわね」

「いや、だからもう——」

「いいから大人しくしてなさい」


 リゼリアはセリオの言葉を遮るように近づき、ベッドの端に腰掛けた。

 そして、迷うことなくセリオのシャツに手をかける。


「おい」

「動くと悪化するかもしれないでしょう?」

「治ってると言ってるだろう」

「信用ならないわ。……それに、私が治療したんだから、最後まで責任を持つべきだもの」


 そう言って、リゼリアはさも当然のようにセリオのシャツを肩まで引き下ろした。

 白くなめらかな指が、ゆっくりと肩の傷跡に触れる。


「ん……確かに、ほとんど塞がっているわね」

「だから言っただろう」

「でも、ここ……」


 リゼリアは指先でそっと古い傷跡をなぞる。

 ヴァルゼオに貫かれた部分は完全に治癒していたが、その周囲の皮膚には、かすかに違和感が残っていた。


「ほら、まだ僅かに魔力の乱れがあるわ」

「別に支障はない」

「いいえ、放っておくとまた痛むかもしれないわよ?」


 リゼリアは少し楽しげに微笑みながら、傷の上に手を重ねた。

 彼女の手からじんわりとした温もりが伝わる。


「……どういうつもりだ」

「治療魔法の余韻を浸透させてるのよ。念入りに、ね」

「……そうか」


 セリオは何か言いたげだったが、強く拒むこともせず、黙ってリゼリアの手を受け入れた。

 ふわりと漂うリゼリアの香りが、微かに甘く感じる。


「……お前は、たまにこうして無駄に触れてくるな」

「無駄じゃないわ……」


 リゼリアはくすっと笑いながら、手のひらをセリオの肩に沿わせたまま、ゆっくりと撫でる。


「お前は戦う度に無茶をするもの。私がこうして気にかけてあげないと、すぐにまた傷だらけになるでしょう?」

「……」


 セリオは少し目を伏せた。

 失われた記憶の中でも、リゼリアはこうして手当てをしてくれていたのだろうか。

 文句を言いつつも、彼の無事を確かめるように。


「……まあ、お前がそこまで言うなら、好きにしろ」

「ええ、そうさせてもらうわ」


 リゼリアは満足げに微笑みながら、もう一度そっと指を滑らせた。

 触れる指先は、まるでセリオの存在を確かめるような、優しく繊細な動きだった。


「ふふ、お前は昔より少しは素直になったわね」

「……うるさい」

「でも、その方がいいわ。これからも、私がちゃんとお前を見ていてあげるもの」


 囁くように言うリゼリアの声は、どこか甘やかだった。

 セリオはそれ以上何も言わず、ただ静かに彼女の手のぬくもりを受け入れた。

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