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第十一話:待っている

 セリオの寝室を出たリゼリアは、一度だけ振り返った。扉の向こうでは、傷の手当てを終えたセリオが眠りについているはずだ。


「……ほんと、無茶ばかりするんだから」


 小さく呟き、廊下を進む。研究所に戻る前に、地下の魔族の様子を見ておくつもりだった。


 館の奥にある隠し階段を下り、石造りの冷たい通路を進んでいく。結界の中に閉じ込められた魔族は、以前と変わらず、そこにいた。

 巨大な人型の影。青白い肌に、うねるような角。

 黒い目がじっとリゼリアを見つめている。


「……」


 リゼリアは結界の外側に立ち、魔族と向き合った。


「お前は一体、何者なの?」


 沈黙が続く。だが、その沈黙を破ったのは、魔族のくぐもった声だった。


「……待っている」

「待っている? 誰を?」

「……我が創造主、イゼルファーン・ヴェル=ライゼ様を……」


 リゼリアの眉がわずかに動いた。

 この魔族は、イゼルファーン・ヴェル=ライゼという名を口にした。


「イゼルファーン・ヴェル=ライゼ……エルフの魔導師ね」


 封印されし古代の魔王アズラグノスに仕えたエルフ。

 禁呪・三界融合術式を作り出した、伝説の魔導師。

 彼の記した魔導書は魔界のどこかに封印されていると言われるが、その所在は定かではない。


「お前はイゼルファーンによって作られた……ということ?」


 魔族はゆっくりと頷いた。


「我は、イゼルファーン様の命により生み出された……勇者を殺し、魔王を守るために」


 リゼリアの胸に、冷たいものが走る。


 勇者を殺し、魔王を守る。

 まるで、セリオと自分の関係を皮肉るかのような言葉だった。


「……それが、お前の使命?」

「使命……それが、我の存在理由……」


 リゼリアはそっと目を細める。

 この魔族は、ただ命じられたままに生きているだけなのだろうか。


「……お前の主は、もういないわ」

「……イゼルファーン様は、必ず戻る……」

「どうしてそう思うの?」

「イゼルファーン様は、我らに約束した……“いつか、再びこの地に帰る”と……」


 リゼリアは小さく息をついた。


「……そう」


 この魔族は、何百年、あるいは何千年も、ただ主の帰りを待ち続けていたのだ。


「だけど、イゼルファーンが本当に戻るとは限らないわ」

「……それでも、我は待つ……」


 リゼリアはしばらく黙った後、ゆっくりと振り返った。


「……ありがとう。貴重な話を聞かせてもらったわ」


 魔族は何も言わなかった。ただ、黒い瞳でリゼリアを見つめ続けていた。


 リゼリアは階段へと足を向けながら、そっと唇を噛んだ。

 イゼルファーンの仕えた魔王アズラグノスは人間界で復活し、勇者セリオに討たれた。その痕跡が今後の魔界にどれほどの影響を及ぼすのか、今はまだ分からない。

 だが、ひとつ確かなのは——


「……セリオは、二度と死なせないわ」


 リゼリアは静かに呟き、地下を後にした。

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