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第十話:檻の中の対話

 リゼリアの留守を確認し、カイは慎重に研究所の地下へと足を運んだ。

 前回、偶然この場所で見つけた少女——レティシア。

 彼女の存在が、頭から離れなかった。


 あの目……あの声……


 檻の向こうで静かに佇んでいた彼女は、何か得体の知れないものを秘めているように感じた。


 もっと知りたい。

 そんな衝動が、カイを突き動かしていた。


          ※


「……来たのね」


 地下牢の前に立つと、レティシアがすぐに気づいた。

 彼女は檻の中、簡素な椅子に腰かけたまま、こちらを見ている。


「……また来てしまった」


 カイは自嘲気味に言いながら、檻に近づく。


「あなた……怖くなって逃げたんじゃなかったの?」


 レティシアは微笑とも嘲笑ともつかない表情を浮かべた。


「……忘れられなかったんだ」

「……そう」


 それ以上、レティシアは何も言わなかった。

 カイは檻の鉄格子に手をかけ、じっと彼女を見つめる。


「君は、どうしてここにいるんだ?」

「……敵だからよ」

「敵?」

「そう。……私は魔族を滅ぼすために生きてきたの」


 その言葉は、驚くほど静かだった。

 まるで、それが疑いようのない真実であるかのように。


「でも……君は人間だろ?」

「人間よ」


 レティシアは迷いなく答えた。


「……だったら、僕と同じじゃないか」

「そうね。でも、あなたは魔族の子でしょう?」


 カイは言葉に詰まった。


「……分かってたのか」

「見れば分かるわ。……その耳を見れば」


 レティシアの視線が、カイの尖った耳に向けられた。


「それに、目も……髪も……」

「……」


 カイは俯いた。

 自分が人間の死者と魔族の混血であることを、こうも冷静に指摘されると、何か胸の奥がざわつく。


「……それでも、君は僕に冷たくしないんだな」


 カイはふと、思ったままを口にしていた。

 レティシアは一瞬、目を伏せる。


「……私は、村の教会で育ったの」

「教会?」

「ええ。孤児だった私を、教会が引き取ってくれたわ。村の人たちは、みんな優しかった」


 レティシアの表情が、わずかに緩んでいる。

 懐かしいものを思い出しているのだろうか。


「……だからかもしれないわね」

「?」

「困ってる子供には、冷たくできないの」


 レティシアは苦笑しながら、カイを見つめた。


「でも、私はあなたの敵よ」

「……敵だと思えない」


 カイは正直な気持ちを口にする。

 レティシアは少しだけ驚いたように目を見開き——

 そして、静かに目を細めた。


「……不思議な子ね、あなた」


           ※


 しばらくして、カイは牢を後にした。


 扉を閉める直前、レティシアの視線を感じた。


 その目が、一体何を伝えようとしていたのか——


 カイには、まだ分からなかった。

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