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第六話:復讐者の執念

 静寂の中、ヴァルゼオとセリオが再び向き合う。


 ヴァルゼオの傷口から滴る黒い血が、夜の闇に溶けるように地面に吸い込まれていく。しかし、彼の表情には痛みも焦りもなかった。ただ、燃え盛る執念の炎が瞳の奥で揺らめいているだけだった。


「俺は、お前を殺すためだけに存在している」


 ヴァルゼオの声は低く、確信に満ちていた。


「生前、お前は魔王を討つために戦い、そして勝った。だがその直後に俺がお前を殺した。そして、アンデッドとして蘇った貴様を——俺は何度も葬ってきた」


 セリオは剣を構えながら、その言葉の意味を静かに噛み締める。


 ——やはり、こいつは俺が過去に"五度目の復活"を果たしていることを知っている。


 自分の知らない自分。

 記憶にない"過去の俺"を知る者が、目の前にいる。


「……ヴァルゼオ、お前の目的は何だ?」


 セリオの問いに、ヴァルゼオは嗤う。


「言っただろう、"勇者殺し"だ」


 ヴァルゼオの剣が妖しく光る。紫電が刃を包み、空間が軋む音が響いた。


「……俺の一族は、人間の勇者に滅ぼされた」


 ヴァルゼオの声には、深い怨嗟が滲んでいた。


「五百年前、魔族と人間の戦争があった。その時、"勇者"の名を持つ者たちは、多くの魔族の血を浴びてきた。俺の家族も、俺の故郷も——すべて、勇者の剣に屠られた」


「……」


「だから俺は誓った。"勇者"を殺すと。"勇者"という存在を、この世から根絶やしにすると」


 ヴァルゼオの剣が地面に突き立てられた。その瞬間、周囲の魔力がざわめき、地面が揺れる。


「俺にとって、お前は"勇者"の象徴だ」


 彼の瞳が鋭く光る。


「何度蘇ろうと、俺はお前を殺し続ける……それが、俺の生きる理由だ!」


 刹那——ヴァルゼオの剣が閃いた。


 雷撃を伴う一閃が、セリオの眼前に迫る。


 ——速い!


 セリオは反射的に霊装の剣を構え、間一髪で受け止めた。衝撃が腕を痺れさせ、足元の地面がひび割れる。

 だが、ヴァルゼオはさらに追撃を仕掛けてきた。


「受けるだけか、勇者よ!」


 横薙ぎの一撃。セリオはそれをかわしつつ、すれ違いざまに剣を振るった。しかし——


「甘い!」


 ヴァルゼオは驚異的な反応速度で後退し、セリオの剣を紙一重で避ける。

 そのまま彼は低い姿勢で飛び込み、鋭い突きを繰り出した。

 セリオはとっさに後方へ跳ぶが——完全には避けきれなかった。


「ぐっ……!」


 ヴァルゼオの剣がセリオの肩を貫く。アンデッドの体だから致命傷にはならないが、強力な魔力を帯びた一撃に、体の動きが鈍るのを感じた。


「ふん、やはり"死者"にすぎんな」


 ヴァルゼオが嘲笑する。


「貴様は勇者だった頃のようには戦えん。死者の剣に、人を救う力などない」


 セリオは奥歯を噛みしめた。


 ——確かに、俺は人間だった頃の強さを取り戻せてはいない。


 ——けれど……それでも。


「俺は"人を救うために"戦っているわけじゃない」


 セリオは剣を持ち直し、ゆっくりとヴァルゼオを見据えた。


「俺は、"生きるために"戦っている」


 その言葉に、ヴァルゼオの眉がわずかに動いた。


「生きる……だと?」

「俺は、"勇者"としての使命はもう持たない。ただ、自分のために戦うだけだ」


 セリオの剣が淡く蒼白の輝きを帯びる。


「……だから、"勇者殺し"に囚われたお前を、ここで止める」


 空気が張り詰める。


 夜の闇の中、二人の戦士が最後の決着に向けて動き出そうとしていた——。

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