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第四話:魔族の復讐者

 静寂の森に、重い気配が漂い始めた。


 セリオは足を止める。館の周辺に住み着いた穏やかな魔族の気配とは異なる、研ぎ澄まされた殺気が空気を震わせていた。


 ——これは、"狙われている"。


「……セリオ・グラディオン」


 低く、冷たい声が闇の中から響いた。

 セリオはゆっくりと振り返る。そこには一人の男が立っていた。


 長身で痩躯。漆黒の鎧を纏い、禍々しい魔力を纏った大剣を肩に担いでいる。その姿を見た瞬間、セリオの記憶が鮮烈に蘇った。


「……ヴァルゼオ」


 その名を口にした途端、背筋に冷たいものが走る。


 目の前の男——ヴァルゼオは、かつてセリオを殺した魔族だった。そして、アンデッドとして蘇った後も、彼に刃を振るい、"二度目の死"を与えた張本人でもある。

 そして今、何度目かも定かではない殺意を向けてきている。


「貴様はまだ生きていたのか」


 セリオの問いに、ヴァルゼオは嘲るように微笑む。


「"生きていた"? 俺が? フッ……俺は貴様を殺すためだけに存在している。この世界のどこであろうと、何度蘇ろうと——貴様を斬る」


 ヴァルゼオの手にした大剣が、紫電を帯びて鈍く輝いた。


「……ならば、問おう」


 セリオは剣を抜く。


「なぜそこまで俺を殺そうとする?」


 彼はただの"魔界の戦士"ではない。魔王の座を狙う者でもなく、忠誠を誓う者でもない。ただ"勇者を殺す"という執念だけで生き続けている。

 ヴァルゼオの瞳には、深い憎悪が宿っていた。


「理由? 貴様が"勇者"だからだ」


 一歩、ヴァルゼオが前に出る。その殺気に、空気が張り詰める。


「俺たち魔族は、貴様ら人間の勇者によってどれほどの同胞を殺された? どれほどの国が焼かれ、どれほどの命が無惨に散った?」

「……それが戦争というものだ」

「違う!」


 ヴァルゼオの叫びが、闇を切り裂いた。


「俺は……貴様ら人間の正義に、奪われたんだ。家族を、故郷を、全てを!」


 激昂するヴァルゼオ。しかし、彼の怒りの根源にあるものは単なる復讐ではない。

 それは、勇者という"概念"への敵意。

 セリオは、彼が"魔王の忠臣"でもなければ、"復讐を終えた後の未来"も考えていないことを悟った。


 ——ヴァルゼオにとって、"勇者を殺すこと"が存在意義そのものなのだ。


 セリオは静かに剣を構える。


「ならば、俺を斬って何になる?」

「貴様が死ねば、それだけでいい」


 刹那——ヴァルゼオが動いた。


 地を蹴り、風を裂く速さで剣を振るう。その一撃はかつてセリオを斬り伏せたものと同じ、"確実に殺す"ための一撃だった。

 セリオは、その太刀筋を見極め、寸前で身を翻す。

 だが、ヴァルゼオの剣筋は変幻自在。躱したはずの一撃が軌道を変え、セリオの肩をかすめる。


「くっ……!」


 斬られた瞬間、セリオは違和感を覚えた。


 "魔力が奪われている"——?


「……気づいたか」


 ヴァルゼオは不敵に笑う。


「俺の剣は、アンデッドの魔力を喰らう。"蘇った死者"にとっては、致命的な刃だ」


 セリオは肩の傷を押さえながら、ヴァルゼオの剣を見据えた。

 ただの斬撃ではない。"アンデッド殺し"として鍛え上げられた刃。


 ——今の自分は、生前とは違う。


 剣技だけでは、この相手に勝てるかどうかわからない。


 しかし——


「それでも、俺は倒れるわけにはいかない」


 セリオは足を踏み込み、再び剣を振るった。


 闇の森の中で、"勇者殺し"との死闘が始まった。

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