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第三十四話:記憶の残滓

 リフォームが進み、寝室は以前とは比べものにならないほど落ち着いた雰囲気になっていた。過度な装飾は取り払い、壁はシンプルな灰色と銀の装飾に。家具も豪華すぎるものは処分され、実用的なものだけが残った。

 セリオは改めて寝室を見渡し、満足げに息をつく。


「随分とすっきりしたな」

「ええ。これでやっと、"貴族の寝室" ではなくて、"セリオの寝室" になったわね」


 リゼリアは、どこか誇らしげに言った。


「お前の協力がなければ、ここまで手早く終わらなかっただろうな」

「ふふ、感謝してくれてもいいのよ?」

「……ありがとう」


 素直に礼を言うと、リゼリアは嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ、最後の仕上げね」


 リゼリアがそう言いながら、セリオの前に立つ。


「仕上げ?」

「そうよ。セリオ、最初に復活したときのことは覚えてる?」


 唐突な質問に、セリオはわずかに眉をひそめた。


「覚えているわけがないだろう。俺には復活後の記憶がない」

「……そうよね」


 リゼリアは小さくため息をついた。


「でもね、最初に復活したとき、お前はいつもご褒美のキスをしてくれたのよ?」

「……は?」


 セリオは一瞬、聞き間違えたのかと思った。


「……お前、何を言っている?」

「本当よ? 私が頑張って蘇生の儀式を成功させるたびに、お前は『よくやった』って褒めてくれて……そしてキスしてくれたの」

「…………」


 セリオはじっとリゼリアを見つめた。表情は変わらないが、心の中では疑念が渦巻いている。


「……俺がそんなことを?」

「ええ。……信じられない?」

「ああ、全く」


 きっぱりと言い切ると、リゼリアはくすっと笑った。


「……冗談よ」

「…………」

「でも、一度目の復活のときのお前は、今とはまるで違ったわ」


 リゼリアの目が、どこか遠くを見つめるようなものになる。


「最初はずっと警戒していたわ。私を含め、魔族すべてを敵視していた。私がいくら説明しても、信用しようとしなかった」

「……そうか」


 セリオは腕を組み、目を閉じる。確かに今の自分は、復活したことを受け入れ、リゼリアともある程度の信頼関係を築いている。だが、最初の復活のときの自分は、まだ人間だった頃の価値観を捨てきれなかったのかもしれない。


「それでも、最後には私を庇って死んだのよ」

「……俺が?」

「そう。魔族を敵視していたはずのお前が、私を守ったのよ」


 リゼリアは静かに言葉を紡ぐ。


「お前は記憶を失っている。でも、魂には記憶の残滓が刻み込まれているのかもしれないわね」


 セリオは何も答えず、じっとリゼリアを見つめる。


「だから、今回もまた私を庇ってくれるんじゃないかって、期待しているのよ」


 リゼリアは冗談めかして笑ったが、その瞳にはどこか切なさが滲んでいた。


「……お前を庇うことにならないことを祈るよ」


 セリオは静かにそう言った。

 リゼリアは少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに微笑んだ。


「そうね。そのほうがきっと、幸せだわ」


 こうして、寝室リフォームは完了した。


 セリオにとってはただの寝室の改装だったが、リゼリアにとっては、彼と過ごす時間の積み重ねそのものだったのかもしれない。

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