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第三十二話:広すぎる寝室と大きすぎるベッド

 館の寝室は、無駄に広かった。


「……これは、いくらなんでも広すぎるだろう」


 セリオは腕を組み、寝室の真ん中に立って天井を見上げた。天井は高く、壁には古びた絵画や魔族の紋章が彫り込まれている。カーテン付きの大きな窓が並び、月明かりが薄く差し込んでいた。

 そして、部屋の中央には異様に大きなベッドが鎮座している。


「……なんだ、このベッドは」

「前の住人は魔界の貴族だったからね。おそらく、このサイズで普通だったのでしょう」


 リゼリアが淡々と答える。


「普通……?」


 セリオは呆れたようにベッドを見つめた。どう見ても四、五人は余裕で寝られるほどの大きさだ。しかも、装飾が豪華すぎる。彫刻が施された黒檀のフレーム、漆黒の天蓋、紫のシルクのシーツ……まるで王族の寝室だ。


「こんな広さは必要ない。ベッドももっと普通の大きさのものに変えられないのか?」

「うーん、それなら家具ごと変えるか……ベッドを改造して小さくする方法もあるわね」


 リゼリアは顎に手を当て、思案するように天井を見上げる。


「どうする?」

「どうするって……」


 セリオは困惑しながら、改めて部屋を見回した。

 確かに広々としているのは悪くない。しかし、あまりにも貴族趣味が過ぎる。シンプルな寝室に慣れていた彼にとって、この装飾の過剰さは落ち着かない。


「……まあ、最低限寝られればいいんだが」

「じゃあ、まずは掃除ね」


 リゼリアが杖を振るうと、部屋の四隅から魔法の風が巻き起こり、ホコリが舞い上がる。


「うっ……!?」


 セリオは思わず目を押さえた。


「ごめんなさい、思ったより埃が溜まってたわね」


 リゼリアは軽く咳払いをしながら、魔法の力で埃をまとめ、窓を開けて外に追い出す。


「さて、次はベッドね」


 リゼリアが手をかざすと、黒檀のフレームが軽く揺れ、ぎしぎしと音を立てる。


「……この素材、簡単に壊せるものじゃないわね。魔界の上級職人が作ったものみたい」

「なら、無理に小さくするのはやめて、せめて装飾を削るとか……」

「それならできるかも。装飾をシンプルにする魔術を使ってみるわ」


 リゼリアが杖を振ると、ベッドの豪華な彫刻が徐々に滑らかになり、シンプルなデザインへと変化していく。


「おお……」

「どう? これなら落ち着くでしょう?」

「まあ、さっきよりはマシだな」


 セリオはベッドの端に手を置き、少しだけ沈み込む感触を確かめた。


「よし、とりあえずこれでいいか。あとは……」


 彼がそう言いかけた瞬間、リゼリアがベッドに腰を下ろし、ぽふんとシーツに沈み込んだ。


「このベッド、結構寝心地いいわね」

「おい、勝手に試すな」

「だって気になるじゃない」


 リゼリアは悪びれもせず、軽く寝返りを打つ。長く白い髪がシーツに広がり、どこか幻想的な光景だった。


「……お前の寝床じゃないぞ」

「知ってるわよ。でも、セリオがどんな寝室で寝るのか気になって」


 リゼリアはくすっと笑い、杖を軽く振るう。すると、天蓋のカーテンがふわりと揺れ、月明かりが優しく差し込んだ。


「……まあ、今日の作業はこれくらいにしましょうか」


 セリオは肩をすくめ、深いため息をつく。


 寝室のリフォームはまだ始まったばかりだ。

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