表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/89

第三十話:魔族の姫の真意

 闇の森に、火花が散る。


 セリオの剣がエルミナの爪と激しくぶつかり合い、金属と硬質な魔族の爪が削れ合う高い音が響いた。

 吹き荒れる魔力の奔流の中、エルミナは妖艶に微笑む。


「さすがね、セリオ。やはり五度も復活しているだけのことはあるわ」


 その言葉に、セリオの眉がわずかに動いた。


「……やはり、お前は知っているんだな」


 エルミナの紅い瞳が細められる。


「ええ。私はお前が"初めて"この世界に蘇った時から見ていたもの。リゼリアがどれほど執着しているかも……ね」


 セリオは無言で剣を構え直した。

 エルミナは、一歩踏み込むと同時に、背中の黒い蜻蛉のような羽を大きく広げた。羽ばたきとともに強烈な魔力の波動が放たれ、セリオの足元がひび割れる。


「今度こそ見極めさせてもらうわ、セリオ。お前が"魔王"となる器かどうかを!」


 エルミナの指が動くと、彼女の爪が一瞬で倍の長さに伸び、鋭い刃となる。

 セリオはその攻撃を見極めながら、冷静に剣を振るった。剣と爪が交差し、空間が裂けたかのような衝撃が周囲に広がる。


「試すような言い方をするな、エルミナ。俺は魔王になるつもりはない」

「本当に?」


 エルミナの妖艶な笑みは揺るがない。


「魔族の世界は"強き者が統べる"のよ。お前ほどの力を持ちながら、それを拒み続ける理由は何?」

「俺は……」


 セリオは言葉に詰まる。

 自分が何のために戦い、何のために生きているのか。かつて人間だった頃の使命感は、今も変わらずこの胸にあるのか。


(俺は何のために……)


 刹那、エルミナの爪が閃いた。


 セリオは反射的に剣を横に払う。衝撃が手に伝わり、エルミナの魔力が剣を蝕もうとする感覚が走った。


「お前は……試しているんじゃないな」


 剣を押し返しながら、セリオはエルミナの瞳を見つめた。


「俺を魔王に"仕立て上げよう"としているのか?」

「ふふ……どうかしら……」


 エルミナは楽しげに微笑むと、一歩後ろへ下がる。


「一つだけ教えてあげるわ。私はね、"人間と魔族の狭間"で揺れ動くお前が、この魔界をどう導くのか見てみたいの。……そして、どんな結末を迎えるのかも」


 セリオは剣を構えたまま、しばらく彼女の言葉を噛みしめるように沈黙した。


「俺はまだ、その答えを持っていない」

「なら、答えを見つけるのね。……お前は、必ずこの魔界の"中心"に立つことになるのだから」


 エルミナの瞳が妖しく輝いた瞬間、彼女の羽が大きく揺れ、黒い霧のような魔力と共にその姿が掻き消えた。


 残されたのは、荒れ果てた戦場と、セリオの静かな息遣いだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ