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第二十八話:魔界の訪問者

 魔界の森の奥にひっそりと佇む屋敷。かつては朽ちかけていたが、今では最低限の整備がされ、それなりに住み心地の良い場所となっていた。


 セリオは屋敷の庭で剣を振っていた。

 死霊となった今、鍛錬に意味があるかは疑問だったが、それでも戦いの勘を鈍らせたくはなかった。何より、剣を振ることで自身の存在を確認しているような気がした。

 そんな彼の背後から、足音が近づく。


「お前、またそんなことをしているのね」


 リゼリアの声だった。

 セリオは手を止め、振り返る。


「別にいいだろう。それより、何かあったのか?」

「ええ。どうやら、お前に会いたがっている客がいるみたいよ」

「客?」


 魔界に知り合いがいるわけでもない。訝しむセリオに、リゼリアは肩をすくめる。


「まだ遠くにいるけれど、こちらへ向かってきているわ。魔族ね。それもただの魔族じゃない……かなりの大物よ」

「……なるほど」


 セリオは剣を鞘に納め、屋敷の門へと向かう。リゼリアと並んで立ち、木々の向こうを見る。


 やがて、森の中から一人の魔族が姿を現した。

 優雅な足取りで歩いてくるのは、長い黒髪をなびかせ、深紅のドレスをまとった美女。赤い瞳が妖しく光り、ただそこにいるだけで周囲の魔力が揺らいでいる。

 それは、圧倒的な力を持つ者の証。


 やがて彼女は門の前で立ち止まり、ふんわりと微笑んだ。


「久しぶりね、セリオ・グラディオン」


 その声音に、セリオの表情が僅かに強張る。


「……エルミナ・ヴァルグリム」


 魔王の後継者。かつて、人間だった頃のセリオもその名を知っていた。

 だが、セリオには彼女との個人的な接点の記憶がない。


「覚えていないのね」


 エルミナはくすりと笑った。


「まあ当然かしら。あなた、今回で五回目の復活だものね」


 その言葉に、セリオの眉が動いた。


(……知っているのか。だが、どこまで……)


 セリオは鸚鵡返しに尋ねた。


「……五回目?」

「そうよ。あなたはリゼリアによって何度も蘇っているの。だけど、毎回記憶を失ってしまう」


 エルミナはリゼリアを一瞥し、口元に笑みを浮かべる。


「ふふ、お前も懲りないわね、リゼリア。何度も彼を呼び戻して、一体どうするつもり?」

「お前に答える義理はないわ」


 リゼリアが警戒の色を濃くする。

 エルミナは再びセリオを見つめた。


「あなたが生きていた頃、私は一度だけあなたと会ったことがあるのよ」

「……そうなのか?」

「ええ。もっとも、あなたにとっては些細なことだったでしょうけれど」


 エルミナの言葉にはどこか含みがあった。

 セリオは記憶を辿ろうとするが、当然ながら思い出せない。


「それで? お前がわざわざここに来た理由は何だ?」


 セリオの問いに、エルミナは微笑む。


「決まっているでしょう? あなたの価値を確かめに来たのよ、セリオ・グラディオン。五度も蘇るに値する男なのかどうか」


 静かな空気の中、黄金の瞳がセリオを射抜くように見つめる。

 それは、試される者に向ける目だった。


(……やれやれ、厄介なことになりそうだ)


 セリオは静かに息を吐いた。


 穏やかな日々は、まだまだ訪れそうにない。

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