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第二十七話:囚われの聖女

 魔界の片隅、ネクロポリスの荒野にリゼリアの研究所はひっそりと佇んでいた。古びた石造りの建物でありながら、そこに満ちる魔力は異様なほど濃密で、まるでこの場所そのものがひとつの生きた魔術装置のようだった。


 研究所の奥、魔力の封印が張り巡らされた部屋に、その少女は囚われていた。


 レティシア・ルミエル。


 聖なる力を纏い、人間界の勇者として生きてきた少女は、今や魔族の手に落ち、冷たい石の床の上に膝をついていた。両手は魔力を吸収する鎖によって壁に繋がれている。

 それでも彼女の瞳は決して曇らない。


「……何のつもりなのですか」


 扉の向こうから現れた白い髪のエルフを睨みつけながら、レティシアは問いかけた。


 リゼリア・イヴェローザ。


 魔界で名高いネクロマンサーであり、幾度となく勇者を蘇らせてきた存在。


「何のつもり、とは?」


 リゼリアは微笑を浮かべながら、ゆっくりとレティシアの元へ歩み寄る。手には細長い杖を携えていたが、それを振るうことなく、ただじっと彼女を見下ろした。


「あなたのような魔族が、私をただ捕らえておくだけで済ませるとは思えません。殺すならさっさと殺しなさい」

「つまらないことを言うのね、レティシア・ルミエル」


 リゼリアはかがみこみ、白く細い指でレティシアの顎を軽く持ち上げた。その肌は驚くほど冷たく、レティシアは思わず身を強張らせる。


「お前が何をしようとしていたのか、少し気になっていただけよ」

「……何?」


 リゼリアはわずかに目を細め、今度は彼女の首元へと視線を移した。

 そこには、奇妙な刻印が浮かび上がっていた。


「これは……面白いわね」


 リゼリアの指が、刻印の縁をなぞる。まるで聖なる魔力と禁忌の魔術が絡み合ったような、奇妙な術式だった。


「お前はこれが何なのか理解しているの?」


 レティシアは何も言わなかった。いや、言えなかった。

 理解している。これは、かつて彼女が自らの身に刻み込んだものだ。


「……あなたには関係ありません」

「関係なくはないわ。これほどの魔術、しかも……おそらく古代のもの。普通の人間には扱えない代物よ」


 リゼリアの目が妖しく輝く。


「お前はこの魔術を何のために用意したの?」


 レティシアは唇を噛んだ。


 語るつもりはない。


 魔界を滅ぼすため。そのために刻んだ術式であることなど、魔族に知られてなるものか。


 しかし——


(まさか、ここまで気づかれるなんて……)


 レティシアは心の中で舌打ちをする。彼女は確かに用意を整えていた。しかし、まさかリゼリアに捕らえられるとは想定外だった。


「……心配しなくてもいいわ」


リゼリアはふっと微笑む。


「私が知りたいのは、ただ純粋な興味からよ。魔術というのは奥深いもの。これほど美しく、強大なものをただ無視するのは、研究者として勿体ないでしょう?」


「……ふざけないでください」


 レティシアは睨みつけるが、リゼリアは気にも留めないようだった。


「いいわ、少し時間をかけて調べさせてもらう。そうすれば、お前が何をしようとしていたのかも見えてくるでしょうね」


 リゼリアは立ち上がると、杖の先で軽く空間をなぞった。


 すると、部屋の封印がさらに強化される。


「安心しなさい。すぐには殺さないから」


 リゼリアは微笑みながら、部屋を後にした。


 レティシアは静かに瞼を閉じる。


(まだ終わりではないわ……必ず、この手で……)


 彼女の胸の奥で、決意の炎は静かに燃え続けていた。

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