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第十八話:新たな住居

 魔界の片隅、霧がかった森の奥に、古びた館はひっそりと佇んでいた。


 黒ずんだ石造りの外壁には蔦が絡みつき、崩れかけた門扉が辛うじてその役割を果たしている。館の周囲には不気味な静けさが漂い、時折、どこからともなく怪しげな声が聞こえてくる。


「……随分と荒れているな」


 門を押し開け、足を踏み入れたセリオがそう呟いた。


「当然よ。元々は魔族の貴族が所有していた館だけれど、百年以上も誰も住んでいないのだから」


 セリオの隣で、リゼリアが軽やかに歩を進める。彼女は白い髪を揺らしながら、古びた扉に手をかけた。


「鍵はもう壊れていたから、そのまま開くはずよ」


 リゼリアが押すと、ギィィ……と軋むような音を立てて扉が開いた。


 室内に足を踏み入れた瞬間、埃の匂いが鼻を突いた。薄暗い空間には、かつて豪奢だったであろう家具が並んでいるが、どれも劣化が激しい。カーテンはボロボロに裂け、絨毯は汚れ、壁の一部は崩れている。


「これは……大掃除が必要だな」


 セリオは額に手を当て、ため息をついた。


「ええ、そのつもりよ。ここをお前の住処にするのだから、綺麗にしないとね」


 リゼリアは楽しげに微笑み、杖を軽く振った。すると、部屋中に漂っていた埃が魔法の力でまとめられ、一箇所に集められていく。


「便利な魔法だな」

「魔法は便利よ。でも、全部を魔法で片付けるのは味気ないし、細かいところは手作業で掃除するしかないわね」

「結局、労働は避けられないということか……」


 セリオは肩をすくめ、近くに転がっていた壊れかけの椅子を拾い上げた。木材が腐りかけていて、少し力を入れたらバラバラになりそうだ。


「これ、もう使い物にならないな。薪にでもするか?」

「そうね。修復できるものは直すけれど、使えないものは捨てましょう」


 リゼリアは袖を捲り上げ、手近なテーブルの埃を払い始めた。セリオも観念して、壊れた家具を外に運び出す作業を開始する。


 ——数時間後。


 大まかな掃除を終え、広間は多少まともな状態になった。埃だらけだった床は磨かれ、使える家具だけを残したことで、少しは居住空間らしくなった。


「思ったよりも早く片付いたわね」

「まあ、二人でやればこのくらいはな」


 セリオは腕を組み、広間を見渡した。まだ完全に綺麗とは言えないが、少なくとも住める程度にはなってきた。


「次は修理が必要ね。特にこの壁……」


 リゼリアが指さした先には、大きなひび割れの入った壁がある。風が吹くたびに微かに揺れ、今にも崩れそうだ。


「……これは魔法でどうにかなるのか?」

「応急処置はできるけれど、本格的に修理するなら材料を集めないとね」

「なら、必要な物を揃えるところからか」


 セリオは頷きながら、ふと視線をリゼリアに向けた。


「それにしても、なんでここを俺の住処にしようと思ったんだ?」

「ふふ、お前にはそれなりの場所が必要だからよ。狭い家よりも、こういう館の方が似合うでしょう?」

「……そういうものか?」

「ええ。お前にはこういう場所に住んでほしいわ」


 リゼリアは楽しそうに微笑み、埃を払いながら歩く。


「ともかく、まずは寝床を確保しましょう。最低限の生活ができる状態にしないとね」

「了解だ」


 こうして、セリオの館での新たな生活が始まった。だが、この時の彼はまだ知らなかった。この館のリフォームが、単なる掃除や修理に留まらず、次々と奇妙な出来事を引き起こすことになることを——。

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