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第十七話:魔王の後継者

 魔王城の広間は、闇に包まれていた。冷たい紫の燐光が燭台から揺らめき、黒曜石の床に妖しい光を落とす。


 玉座の前、豪奢な絨毯の上には、魔王の後継者エルミナ・ヴァルグリムと勇者殺しの復讐者ヴァルゼオの姿があった。


「ふふ……ヴァルゼオ、お前の肌は相変わらず冷たいわね」


 エルミナは長い爪をヴァルゼオの頬に這わせ、妖艶な笑みを浮かべた。ヴァルゼオは表情を変えずに、エルミナの腰を引き寄せる。


「お前が熱すぎるんだ。……それに、俺はこうしているよりも剣を振るっている方が性に合っている」

「ふふ、強がりね。でも、こうして私の腕の中にいるということは、まんざらでもないのでしょう?」


 エルミナが唇を寄せようとしたその時、場違いな咳払いの音が響いた。


「……申し訳ありません、エルミナ様」


 二人の逢瀬を邪魔したのは、黒い甲冑をまとった魔族の男だった。エルミナは少しだけ顔をしかめたものの、すぐに興を取り戻したかのように顎をしゃくる。


「話しなさい。次の言葉次第では、少しばかり罰を与えることになるかもしれないけれど」

「はっ……報告いたします。先日、リゼリア様の領域で《死せる勇者》が目撃されました。間違いなく、セリオ・グラディオン本人かと」


エルミナは目を細め、長い足を組み替えた。


「ほう……あの男、また蘇ったのね」


ヴァルゼオが薄く笑い、興味なさげに呟く。


「何度蘇ろうが、殺せばいいだけの話だ」

「ええ、そうね。でも、今はまだ利用価値があるわ。何せ、彼は"あの存在"を消してくれたのだから」


 "あの存在"——人間界に封印されていた古代の魔王、アズラグノス。エルミナにとって、セリオは邪魔な魔王候補を排除した手駒に過ぎない。


「とりあえず放っておきなさい。今の彼はただのアンデッド、記憶すら完全ではないのでしょう?」

「ですが、リゼリア様が動いております。このままでは……」

「リゼリアのことは気にしないでいいわ。彼女がどれほど彼を愛していようと、所詮は"未完成な復活"。魔王の座には相応しくない」


 エルミナはくすりと笑い、手を振った。


「報告は以上ね? ならば、あなたは下がっていいわ。……邪魔をした分の罰は、また後で考えておくから」


 甲冑の魔族がわずかに身を震わせ、深く頭を下げて退出する。その姿を見送りながら、エルミナはヴァルゼオの顎を指先で持ち上げ、妖艶に囁いた。


「さて、続きをしましょうか?」


 ヴァルゼオは少しだけ呆れたように息をつきながら、エルミナの腰に手を回した。


          ※


 しばらくして、再び報告のための部下がやって来た。


「エルミナ様、申し訳ありませんが、またご報告がございます」


 エルミナは退屈そうに目を細めた。


「今日は随分と騒がしい夜ね……。今度は何?」

「先ほど、魔界の国境付近で、人間界から侵入した騎士の一団を捕えました」

「へぇ……?」


 エルミナの唇がわずかに吊り上がる。ヴァルゼオはつまらなさそうに腕を組んだ。


「何人だ?」

「確認できた限り、二十名ほど。我々が迎撃し、十名は討ち取り、残りの者たちは拘束いたしました」

「ほう……」


 エルミナは長く伸びた黒い爪をゆっくりと動かしながら、考えを巡らせた。


「彼ら、ただの騎士というわけではないわよね?」

「はい、間違いなく人間界の聖騎士です。彼らは"魔界殲滅"を掲げて侵攻してきたようですが……結果はご覧の通りです」


 エルミナは満足げに頷いた。


「素晴らしいわ。せっかくだから、彼らには"新しい役目"を与えましょう」


 ヴァルゼオが横目で彼女を見る。


「またお前の実験か」

「ええ、そうよ。興味があるわ……"聖なる者"が、魔の力によってどれほど醜く変わるのか」


 エルミナは立ち上がり、部下に命じる。


「捕えた者たちを研究室へ移送しなさい。存分に試させてもらうわ」

「はっ!」


 部下が退室し、エルミナはくすりと笑った。


「さて……面白くなってきたわね」


 ヴァルゼオは軽く肩をすくめ、冷淡な笑みを浮かべる。


「好きにしろ。だが、遊びすぎて自分が化け物にならないようにな」

「ふふ……忠告として受け取っておくわ」


 エルミナは楽しげに笑い、背中に生えた黒い蜻蛉の羽をゆらりと揺らした。

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