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第十三話:交差する刃

 レティシアの剣が、蒼い光を帯びながらセリオへと迫る。


 彼女の動きは速かった。かつて幼い少女だったころの面影はそこにはなく、今の彼女は一人の戦士——いや、聖騎士としての力を確かに持っていた。


 カンッ——!


 鋼の響きが暗い空気を切り裂く。


 セリオは咄嗟に剣を振るい、彼女の一撃を受け止めた。


 衝撃が腕に伝わる。並の戦士なら、この一撃だけで膝を折っていただろう。


 しかし、セリオは揺るがない。


「……力をつけたな」

「悪を討つために、鍛えました!」


 レティシアの蒼い瞳がまっすぐにセリオを捉えていた。


 彼女の剣は迷いがない。


 セリオを救い、魔族を滅ぼす——その意志だけが、刃の中に込められている。


「セリオ、何をしているの? さっさと片付けなさい」


 後方で腕を組みながら、リゼリアが退屈そうに言った。


 セリオは苦笑する。


「簡単に言うな」


 再び剣が交差する。


 レティシアは連続で斬撃を繰り出してきた。


 その剣は洗練されており、無駄がない。セリオがかつて教えた技術を基盤にしながらも、そこには新たな技が組み込まれていた。


 だが——彼女は知らない。


 セリオが、すでに“人間”ではなくなっていることを。


「……悪いが、今の俺はもうお前の知っているセリオじゃない」


 セリオは剣をひねり、レティシアの斬撃を受け流した。


 そして、すかさず懐へ踏み込む。


「なっ——!?」


 レティシアの表情が驚きに染まる。


 次の瞬間、セリオの剣の柄が、彼女の腹部へと叩き込まれた。


「ぐっ……!」


 鈍い音とともに、レティシアの体が後方へ吹き飛ぶ。


 それでも、彼女は膝をつきながら必死に立ち上がろうとした。


「く……まだ……私は……」


「もうやめなさい」


 リゼリアが一歩前に出た。


 彼女の周囲に紫の魔力が渦巻く。


「これ以上やるなら、私も本気を出すわよ?」


 レティシアは歯を食いしばりながら、セリオを睨みつける。


「……あなたは……本当に……セリオ様なのですか?」


 セリオは答えなかった。


 彼が言葉を発するよりも先に、リゼリアの指先から放たれた魔力が、レティシアの意識を奪った。


 少女の体がゆっくりと地面に倒れる。


「ふぅ……面倒な子ね」


 リゼリアが肩をすくめた。


 セリオは無言のまま、静かに剣を鞘に収めた。


 レティシアの寝顔には、まだ怒りの気配が残っていた。


 彼女が再び目を覚ましたとき——その正義は、どこへ向かうのだろうか。

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