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第一話:死者の目覚め

 闇の底から這い上がるような感覚だった。


 意識がゆっくりと浮上していく。冷たい空気が肌を撫で、どこか遠くで微かな囁きが聞こえる。重い瞼を開くと、視界には見知らぬ天井が広がっていた。


 ——ここはどこだ?


 起き上がろうとすると、異変に気づく。身体が妙に軽い。それでいて、手足に確かな実感がない。まるで霞のように頼りない感覚に、セリオ・グラディオンは僅かに眉をひそめた。


「目覚めたのね……」


 透き通るような声が響いた。


 視線を向けると、そこには一人の少女がいた。


 白い髪に赤い瞳、雪のように色素の薄い肌。漆黒のローブを纏ったその姿は、どこか幻想的な美しさを帯びていた。しかし、ただの少女ではない。彼女の周囲には魔力が濃密に渦巻いていた。


「……誰だ?」

「リゼリア・イヴェローザ。ネクロマンサーよ」


 その名を聞いた瞬間、セリオの記憶が警鐘を鳴らした。


 リゼリア——かつて討ったはずの魔族。


 魔王軍の中でも特に危険な存在として、人間側に警戒されていたエルフのネクロマンサー。魔王の側近ではなかったが、その異質な魔術と研究への執着は、当時のセリオにとっても無視できない脅威だった。彼女が敵軍にいたことで、戦場は数度にわたり地獄と化した。


 そして——自らの手で、確かに殺したはずの相手。


「……お前、生きていたのか」

「ええ。不死の術を施していたから……」


 淡々とした口調に、セリオは無意識に剣の柄に手を伸ばそうとする。だが、そこには何もなかった。それどころか、自分の手が半透明になっていることに気づき、息をのむ。


「……俺は、生きているのか?」


 リゼリアは薄く微笑んだ。


「いいえ。お前はすでに死んでいるわ。そして、私が蘇らせたの」


 その言葉に、セリオの背筋が凍った。


 ——蘇らされた?


 己の胸元に手を当てる。鼓動はない。呼吸の感覚も曖昧だった。まるで幽霊のような……いや、まさに死者そのものだ。


「……なぜ、俺を?」

「お前に、魔王になってほしいからよ」


 平然とした声音に、セリオは言葉を失った。


 死してなお、魔王になれと言われるとは——一体どういう冗談だ?

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