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6 化け物

 ーーどさり


 医者の頭が胴体から離れずり落ちる。それに続くようにして胴体も、糸の切れた人形のように地面にくずれ落ち、その場は瞬く間に血の海へと変わった。

 一体何が起こったのか、目を離さなかったというのに全くわからなかった。

 今、目の前で一瞬にして医者が死んだ。誰がやった?一体どうやって?男にわかるのはただ一つ。

 次は自分だ。

 いつの間にか息は荒くなり、背中を冷たいものがつたう。


「誰の命令で僕を殺そうとしたのか、話す気にはなりませんか?」


 フードの男に向けて静かに問いかける。

 第三王子がこの場に現れてからここまで、話すトーンが一切変わらない。

 淡々と、まるで、明日の天気でも尋ねるかのような気楽さで。

 足元に生首が転がっているのも、全く気にも留めようとしない。

 異質だ、こんな子供がいてたまるか。やはり人間ではないのだ。

 こんなものを相手にさせられるなんて割に合わない。


「何をした?その男をどうやって殺った」


 答えを得られるとは思っていない。もちろんどうやって首を落としたかも知りたくはあったが、二の次だ。

 フードの男は逃げる隙を作るため、会話で気を逸らすつもりだった。


「何って魔術ですよ。ご存じでは?」

「魔術だと?」


 第三王子のふざけた嘘が、フードの男を苛立たせる。

 逃げようにも隙が全くない。逃げ切れるというビジョンが浮かばない。

 やはり、第三王子を殺すしかこの場から生き延びる術はないのか。

 医者を殺した方法もわからないというのに。


 …いや待て。この状況でなぜ今、魔術だなどと嘘をつく必要があるんだ?


 火や水といった自然現象を操る『魔術』の発動には、魔術具と呼ばれる道具が必要だ。人間は道具無しに超常の力を振るうことはできないのである。

 第三王子はその手に何も持ってはいない。装身具の類もつけている様子はない、丸腰だ。

 生身でそんなことができるというのなら、それは、


「…化け物め」


 フードの男は無意識のうちにそう呟く。

 畳み掛けるように、フードの男が暗器を複数投げた。

 ナイフ状である暗器の刃先には神経毒が仕込まれているため、かすっただけでも致命傷となり得るものだ。


 暗器は寸分の狂いなく標的の急所にささった、





 --はずだった。


 再び突風が吹き荒れ、男の意識はそこで絶たれた。


 ***


 地面には首と胴が離ればなれとなった屍が二つ転がっている。一応刺客の所持品から黒幕につながるものがないか探ってみたけれど、それらしい物は見つからなかった。

 死体の衣服を探る手を止め、僕の視線は自然と胴を離れ地面に転がる首の方に向かう。首を刈り取った方法は単純なもので、魔術によって切り裂く風を起こしただけ…なのだが先ほどのフードの男の反応が気にかかる。

 風を自在に操るのは幼い頃から、それこそ前世から使うことができた。幼い頃にウリエク兄上に連れられ見せてもらった軍事訓練で、兵士たちが水や風を攻撃として撃ち出す姿を真似たものだ。やり方は教わらずとも自然と使えていた。それこそ呼吸の仕方を教わらずとも、はじめからできるのと同じように。今思えば、それを人前で使って見せたことはなかったかもしれない。

 僕が自然と使っていたこの力は、魔術でないのなら何なのだろうか。幼子である今の僕にとって、戦う手段があることはありがたいので、この力はこれからも使うつもりではいるが。一度、魔術もきちんと学ぶ必要があるな。


「この死体どうしよう」


 ここが人の立ち入らない場所だからと言って、このまま放置するわけにもいかない。かといって死体を埋めようにも穴を掘る腕力がないし、僕の力も穴を掘るのには向いていない。そのうち医者が行方をくらませたと騒ぎになるだろう。仮にも王子の治療診察にあたっていた人物が失踪したのだから、離宮から近いこの場所も捜索の手が入るはずである。その時にこの死体を発見させればいい。僕がここにいたという証拠さえなければ、仲間割れか何かだと思ってくれるかもしれない。


 ーーー化け物め。


 時を遡ったことも、毒殺をしようとした黒幕も、そして僕自身のことも。

 僕は知らなすぎる。

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