28 秘密の塔
貧民街に足を運んだその日に、ようやく目当ての人物を見つけた。こんなにもすぐに見つけられたということは、やはり前世のどこかで知っていたのかもしれない。
僕と同じ色の瞳を持つ少年。聞けば彼は、貧民街で育ち暴力を振るう母親から逃げて以来、一人で生きてきたらしい。
では、僕の隠された双子の片割れという線は消えたということで良いのだろうか。
それにしても見れば見るほど僕とそっくりだと思う。違うのは髪の色くらいだ。二人を横並びにしてよく観察すれば、瞳の金色がわずかに違うことに気づく。僕よりも赤みの強い金色だ。
とは言っても二人同時に人前に出ることはまず無いから、問題はない。
「まずは自己紹介をしないとね。僕の名前はアトラエル。君の名前は?」
「…ガキとか、オイとかテメエとか」
「…」
うん、それは名前ではないね。彼も中々壮絶な人生を歩んできたようだ。
まずは名を決めなければ。
「じゃあ今日から君の名前はシルファだ」
「シルファ…」
「うん、これからよろしくね」
「あの……それでおしごとって、オレはなにをすれば」
「くわしい話は後で。今は僕についてきて!」
未だこちらを警戒している様子のシルファの手を取り、貧民街から連れ出した。
***
「ここが君の部屋だ。この場所を知っているのは僕とシルファだけ」
離宮の自室にあった隠し通路の先で見つけた小さな塔の一室。
廃墟同然だったそこをこの日のために少しずつ片付けていたのだった。寝具も新調し(離宮からこっそり持ち出した)、人ひとり生活するのに十分なように整えている。
部屋の隅に置かれた全身鏡の前にシルファを連れて行き並び立つ。髪色が違うだけでそっくりな見た目を見て、シルファは驚愕に目を見開いていた。今まで自身の容姿をちゃんと見たことがなかったのかもしれない。僕たちの容姿が似ていることを初めて認識したようだった。
「シルファには僕といっしょに『第三王子アトラエル』をやってほしいんだ」
「お…うじ……?」
あれ?僕が王子だということは言ってなかったか。シルファは口をぽかんと開けたまま固まってしまった。
自己紹介といっても伝えたのは名前だけだった。これではよくない。これからシルファとは長い付き合いになるんだから。
僕たちは改めてお互いのことを知ることから始めた。
この部屋には生活に必要な最低限のものは揃えたつもりだが、談話に向くようなソファーやローテーブルはない。そのため僕とシルファは寝台に並んで腰掛けていた。
大人用の寝台は僕たちにはやや高く、座ると足が届かない。
「じゃあシルファは自分が何歳かわからないのか」
「うん、アトラエル…王子は?」
「敬称はいらないよ。これからはシルファも王子をやるんだから、僕のことは名前で呼んで」
ね、とニコリと微笑めばシルファから承諾の応えが返ってきた。こくりと頷くその仕草は素直で子どもらしい。はじめこそ警戒していたものの、シルファは貧民街で暮らしていたとは思えないほど純粋に思える。
三歳の僕と同じ背丈にも関わらずしっかりとした受け答え。貧民街で一人で生きてきたなら十分な栄養は得られていなかっただろう。このことからシルファは僕よりいくらか年上なのではと考えていた。
「シルファの仕事はね、僕が必要だと思った時に『僕』として振る舞うこと」
王子として知っておくべき知識の習得などはこの塔の一室にて秘密裏に行われ、そのための衣食も保証する。それらをシルファにわかりやすく説明した。当然、危険が伴うことも。
「…わかった、やる」
「…ほんとうに大丈夫?お願いしてる僕が言うことじゃないけど、敵に襲われたりするかもしれない」
「でも、それがおしごとでしょ?またあのばしょに戻るくらいなら、あぶなくてもやりたい」
そう言って僕を見つめる金色の瞳は、生き生きと力強い輝きに満ちていた。僕と似た、それでいて僕とは全く違う美しい瞳だった。




