22 違和感
運び込まれた部屋では、医者と助手だろう年若い男性が難しい顔をして何やら話し合っているようだった。
「では、毒では無いと?」
「ううむ、解毒薬の効果が見られないのだ。それに症状が一部当てはまらない」
「ではできることは無いのですか」
「今は自己回復力に頼るしか無い」
重苦しい沈鬱な空気が部屋を満たしていた。
毒では無かったと医者は言う。しかし、リリエラーデ様は意識を失うほど深刻な状態に陥っている。医者に原因がわからなければ、誰にもわからないだろう。
何か手がかりがないかと、ひとり温室へと戻った。そこには母上や兵士、ランスの姿もあった。
ローテーブルの上はお茶会をした時のままで、母上が外国で買い付けたという大きな焼き菓子があった。リリエラーデ様の侍女がこの場で一切れずつ切り分けたらしい。三人分それぞれの皿に同じ菓子がある。僕を含め全員がその菓子を口にしていた。
しかもリリエラーデ様の分に関しては、彼女の侍女が先に口にし毒見までしている徹底ぶりだったという。出されたものは必ず毒見を通すというあの噂は本当だったのか。
けれど、リリエラーデ様の人となりを知ったあとだと、その行動に違和感を感じてしまう。
そのような無礼と取られかねない行動を取るだろうか、と。
今日のお茶会は、場所こそリリエラーデ様の管理する温室だが、提案したのは正妃である母上で、お茶菓子を用意したのも母上だ。
正妃の用意したものを、彼女の目の前で毒見させるのはあまりにあからさますぎないだろうか。これでは正妃のことを信頼していない、疑っているのだと言っているのと同じだ。けれどそれは、リリエラーデ様らしくない。そしてもう一つ気になることがある。
もっと情報を集めたくて、今日の給仕を勤めた侍女たちのいる別室に向かった。そこには三人の侍女が待機していた。他には警備をしていたのだろう二人の兵士の姿もあった。僕は毒見をしたという侍女に話を訊いた。三人の侍女の中では一番年上で、リリエラーデ様に似た焦茶色をした髪は白髪が混じっていた。
「あなたの体調は大丈夫ですか?」
「問題ございません」
「リリエラーデ様の食べるものは、あなたがいつも先に食べているのですか?」
「ええ、そうです。あの方は口になさるものにこだわりがあられるのです」
僕たちの会話を横で聞いていた年若い二人の侍女も会話に入ってきた。彼女たちもリリエラーデ様の侍女だ。
「側妃様は大丈夫なんでしょうか。その、ご様態は」
「どうしてこんな事に……毒見だって侍女長がしっかりなさっていたのに!」
「リリエラーデ様はまだ意識がないです。……お医者さまも、できることは無いと言っていました」
「そ、そんな!」
若い侍女の一人がその場に崩れ落ちた。




