21 側妃毒殺事件
お茶会は以前僕がリリエラーデ様とエリエス兄上とで会話をした、緑に囲まれたあの温室だということがわかった。温室はリリエラーデ様が手ずから管理している場所なのだそうだ。
僕は周囲の目など気にせず、全速力でその場に向かった。
扉を急いで開けるとそこには、以前と同じ位置にリリエラーデ様が、そしてその向かいに母上が座っていた。侍女たちも、前と同じく人払いがされていて誰もいない。本当の二人きりだ。すでにお茶は飲み始めていたようだ。
「あら、アトラエル殿下。どうしてこちらに?」
「母上がリリエラーデ様とお茶会をすると聞いて、僕もお祝いに来ました。参加しても良いですか」
「まあまあ、そうでしたの嬉しいですわ」
「ところでこのお菓子、これも見たこと無いですね。こちらもリリエラーデ様がお作りに?」
「いいえ、こちらはリトヴィアナ様が外国で買い付けてくださったものなのですって」
とても美味しいですわね、とリリエラーデ様は顔を綻ばせていたが、僕は内心それどころではなかった。
食べ物に毒は仕込まれていなかった、ということで良いのだろうか。だが遅効性の毒ということも考えられる。
一応母上の反応も見ながら自身も茶菓子に手をつけてみたが、特に何の反応も示さなかった。もしも母上が毒を盛っていたなら僕が口にする前に止めただろう。希望的観測に過ぎないが、実際『アトラエル』を失って困るのは母上だと思う。僕が攫われた時だって替え玉を用意したぐらいなのだから。
三人同じものを食べ、同じお茶を飲んだ。お茶は前回飲んだ緑色のものではなくて、普通の紅茶だった。
特に症状が出る気配はなかった。毒が入っていなかったのなら、それに越したことはない。
そう、安心しかけた時だった。
ひゅっ、と空気が抜けるような音がリリエラーデ様の喉から出た。それは瞬く間に激しくなり、この場から空気が無くなってしまったかのように苦しみ出した。
「リリエラーデ様!」
その場に倒れ込んだリリエラーデ様にかけ寄った。彼女はうまく呼吸ができていないようで、喉からはヒューヒューと頼りない音が出るだけだった。
やはり毒が仕込まれていた?でもどこに?
とりあえず今は食べたものを吐き出させるため、口の中に手を突っ込んだ。体を横向きにして、吐き出したもので喉を詰まらせないようにする。
全部出させたあとで、毒が少しでも薄まるように水を飲ませた。少しは楽になっただろうか。
リリエラーデ様の喉が赤く腫れ上がっていた。顔や他の場所もところどころ赤く発疹のようなものができている。
どうしてリリエラーデ様だけにこんな症状が現れたんだ。
母上が呼んだらしい、医者やら使用人たちが続々と部屋に駆け込んでくる。これが毒にしろ何にしろ、治療は専門家に任せるしか無い。
今回のお茶会で給仕に携わった侍女たちは、別室に集められることになった。万が一犯人がその中にいた場合、証拠の隠滅を防ぐためだ。城内で側妃を害したのだから、当然徹底的な捜査がなされるだろう。
リリエラーデ様は私室に運び込まれていった。まだ意識が戻らないようで、危険な状態が続いているのかもしれない。彼女の容態が気になり、僕はこっそりと後をついて行った。




