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20 静寂が支配する夕餉

「おかえりなさいませ、ははうえ」

「…………ええ」


 以上。そのまま母上は護衛と侍女たちを伴いながら自室へ行ってしまった。今はただ彼女の目に敵意が無かったと確認できただけで良しとしよう。目線も合わなかったが。

 前世の僕では敵意や殺気に反応することはできなかったから。

 しかしこれで益々わからなくなった。てっきりその目に殺意でも籠っていると思っていたからだ。明らかに僕を嫌っている様子なのにその感情が見えない。巧妙に隠しているのかもしれないが。それならば普通態度こそ隠すべきであろうに、行動がなんともちぐはぐに感じるのは気のせいだろうか。


「アトラエル様、本日の夕餉は正妃様もご一緒なさるかと。それまでいかがいたしますか」

「お茶がのみたいです」


 ああ、会話の成立しない様がありありと浮かぶ。

 リリエラーデ様と接してみてわかったことがある。前世で僕は、リリエラーデ様とエリエス兄上の時のような、暖かな親子の関係を求めていたのだと。だが、今はそのような気持ちは僕の中には無い。

 ごっそりとその思いをどこかに置いてきてしまったかのような。

 おそらくは前世で最後に会ったあの時だろうが。

 おかげで幾分か冷静に彼女を分析もできると思えば、これで良かったと言える。なにせ未来の悲劇を回避していかなければならないのに、今更親子関係について頭を悩ましている暇は無いのだから。

 そして案の定、一言も交わすことのないどころか目も合わさず、ひたすら静寂がその場を支配し続け夕餉は終わった。


 なんと三日後には王城で、父王と兄上たち王族全員での食事会があるのだそうだ。

 全員で集まっても一家団欒とはならない。あれは言うなれば軍事会議だ。その言葉が雰囲気としては一番しっくりくる。その場では母上も黙り込むことなく、国王である父上に対して普通に話すのだが、内容が国内外の情勢やら国境付近の治安状況やら軍事に関する事柄が多く、軍部に所属しているウリエク兄上は当然その話にのってくる。父上も言葉は少ないものの、会話を続けるよう促してくるのだ。この時ばかりはリリエラーデ様のあの陽だまりのような笑顔も鳴りを潜めるため、重苦しいことこの上ない。

 とは言ってもこれは前世のできごとで、つまりはもう少し先の未来のはなしだ。今世では今回が、僕が参加する初めての食事会となるのではないだろうか。兄上たちだってまだ幼いのだし、今回ばかりは軍事会議にならないことを祈る。

 いや、会議の内容は知りたいのだけれど、食事時にする話ではないと僕は思う。

 しかし結局、三日後の食事会が開かれることはなかった。


 ***


 食事会の前日。

 その日、母上は朝から出かける準備をしていて、それに気づいた僕はランスにこっそり母上の予定を訊いたのだった。


「リリエラーデ様とお茶会?」

「はい、なんでも私的に側妃のご誕辰を祝うのだと」


 私的に、それはつまり二人きりでということだろうか。それは……良くないのでは。何か嫌な予感がする。

 前世でリリエラーデ様が亡くなったあと、なぜ母上が毒殺したなどという噂が流れたのか。それは二人きりだったからじゃないのか。

 まずい。非常に。

 とりあえずそのお茶会を止めなくてはと母上の部屋に向かったが、もうすでに馬車が出たあとだった。急いでもう一台馬車を用意させ、後を追いかけた。

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