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17 夢

 これは夢なのだと、咄嗟にそう思った。


 僕の目の前にいたのが僕と同じ顔をした『彼』だったから。でもどことなく違和感を覚えるのはなぜだろう。今目の前にいる『彼』が、あの日替え玉として会った時よりも少し大人びて見えるからだろうか。それとも、薄汚れたローブを身に着けて腰に剣を下げたその姿が、替え玉としての恰好に思えなかったからだろうか。

 そういえば奴隷として対峙した時は、こんなにもじっくりと『彼』の顔を見ることはできなかったな。こうして間近にして見ても、僕によく似ていると思う。髪の色は染めてしまえばどうにでもなるとしても、目の色はごまかせない。金色の目なんて自分以外に存在したのかと驚いたくらいだ。

 ……やっぱり実は兄弟とかなのだろうか。

 話しかけてみたいけれど、夢だからか自由がきかない。

 ふいに『彼』と目が合った。


「ーーーーー」


 僕に何か話しかけているようだが、うまく聞き取れない。でもその顔は真剣で、どこか切羽詰まったような焦りのようなものを感じさせる。

 何を伝えたいのだろう。『彼』は、この夢は。


 なぜこんな夢をみたのか、目が覚めてからもわかることはなかった。

 今日は、予想以上に早く目が覚めた。変な夢を見たからというのもあるが、それならばと城下町に下りてみることにした。

 何か用事を作って馬車で行くのもいいけれど、それだと城の人間の目があって自由に行動ができない。

 あれから隠し通路の先にあったあの古びた塔の中は、こつこつと地道に掃除を進めること二週間、寝起きするにも問題ない程度にきれいになった。

 それまでの間に文字の授業も始まった。とはいっても読み書きはすでにできるため内容は重要じゃない。僕としては、また王城の書物保管庫にでも忍び込んで魔術関連の本を読みたかったのだが、あいにくと閲覧許可の必要なもので簡単に読むことはできなかった。魔術の知識に関しては別の手段を考えなくてはいけない。

 使用人が起こしに来るまでにはまだ時間がある。だが、その時間までに城下町に行って帰ってくるなんて早業はさすがにできない。

 バレたらまたランスに怒られるんだろうなと思いながら、一応「さんぽにでます」との置き手紙を残してから隠し通路の階段を下って行った。

 外は霧が立ち込め、季節はもう夏に移ろうというのに、ひんやりとした空気が僕の頬をなで、思わずぶるりと身体を震わせた。

 隠し通路の出口から城下町まではそうかからない。ただし大人の足での話だが。

 澄んだ空気を堪能しながら歩を進めていると、後方から誰かの声がした。


「アトラエル?こんな所で何をしている」


 それは馬に跨ったウリエク兄上だった。まずい、見つかってしまった。


「あ、おはようございます、ウリエク兄上。今日も良い天気ですね」

「ああ、だが何をしている?ここは城の外だぞ。離宮の使用人たちはどうした」

「朝のさんぽをしたくて、ないしょででてきました」

「さんぽ」


 僕の言った言葉をおうむ返しする兄上の顔からは、納得いかないといった困惑の感情が窺い知れた。さもありなん、ここは城壁の外だ。どうやって出たんだという話になる。


「兄上もおさんぽですか?かっこいいうまですね」

「馬術訓練を兼ねて遠乗りでもしようかと思ってな」

「遠乗りは城下町までいきますか?」

「いや、町は馬を走らせるのに向かない。広い平地の方に出る予定だが……」


 兄上は言葉をそこで切って悩むそぶりを見せた。僕は人に見つかってしまった時点で今日の探索は半ば諦めていた。『彼』のことは早く探したいけれど他の人に知られるわけにはいかないし、城下町に確実にいるという証拠があるわけでもなかった。

 何やら考えこんでいた兄上は、にやりと口の端を歪めてみせた。


「では、俺と行くか」


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