15 不可思議な現象
リリエラーデ様と思いがけずお茶を楽しんだあと、僕は離宮へと戻った。相変わらず屋敷の周りは兵士で騒がしかったが、そのことよりも屋敷の中の方まで何やらにぎやかなことに疑問を覚えた。
ランスにうながされて玄関の中ほどまで進むと、使用人服に身を包んだたくさんの人が慌ただしく屋敷内を行きかっていた。まさか今までもこれだけの人がこの屋敷にいたのだろうか。
「ここは、こんなに人がいたのですか?」
「皆、この離宮の使用人たちでございます。」
一体今までどこに、という僕の疑問を表情から読み取ったのか、ランスが続けて答えてくれた。……答えてくれたのだが。
「この離宮に出入りできる使用人は限られておりまして。何と言いますか、言葉にすると変に思われるかもしれませんが、殿下がお倒れになってからはほとんどの者がこの離宮に近づけなくなってしまったのです」
「それは、病がうつってはいけないから?」
「いえ、ひとたびこの建物を出ると戻り方がわからなくなってしまう、といいますか。長くこの離宮にて仕える者たちであっても、道に迷ってしまったかのようにたどり着かなくなるのです」
ランスの答えは想定外の、というか斜め上の内容だった。道がわからなくなる?王城からここまでは一本道だし、馬車が危なげなく通れるようしっかりと舗装されている、実にわかりやすい道のりのはずだ。しかもランスの戸惑っている様子からして、どうやら方向音痴とかそういう問題ではないらしい。
その不可思議な現象は、僕が目覚めたあといつの間にか解消されていたのだそうだ。そして今は人の出入りが可能になりそれまで滞っていた仕事を、使用人を総動員して片付けていたとのことだった。
ランスにも原因のわからないこの現象のことを聞いたとき、ふとやるべきことを思い出した。
「ランス、ぼく本をよみたいです」
「本でございますか。ご用意はできますが、まずは文字を読めるようにならねばなりませんね。教師を手配いたします」
「ありがとう」
文字の勉強からか、それはまた……。まあ本当に読みたい本はここを抜け出して読めば良いし、仮にその場面を見咎められたとしても文字を勉強していると周りが認識していれば、あとで言い訳もしやすいか。ここは退屈を我慢して受けるしかないな。それにはやく確かめたい。
『魔術』とはどういうものかを。




