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13 側妃リリエラーデ

 一面ガラスに覆われたこの空間は、太陽の光が差しとても明るく床は輝くように白い。花は手入れが行き届いており見るものの心を落ち着ける。中庭に咲く花とは雰囲気が違い、こちらは派手さはないが素朴で美しい。緑もあの丘から見た色に似ている気がした。

 自然に囲まれた部屋の中心には白いソファーとローテーブルが配置されており、自然の豊かな彩りを邪魔することなくよくなじんでいる。そのソファーに座る女性は、エリエス兄上の呼びかけに応えるように、少し俯いていた顔をそっとあげた。

 後ろで綺麗に結い上げられた鳶色の髪、短めの睫毛に縁取られた瞳は知的な女性を思わせる。きつめの印象ではないのは、少し下がった目じりが優し気で雰囲気を和らげているからだろう。


「いいのよエリエス、時間通りだわ。それで、そちらの可愛らしいお客さまは?」

「はじめまして、エリエスあにうえのお母上様。ぼくのなまえは、アトラエルといいます」

「母上、僕たちの弟ですよ。母上に会いたかったそうで、この場に連れてきてしまいました」


 どんな反応が返ってくるだろうか。約束も何も取りつけていない、突撃訪問のようなことをしておいて今更ではあるのだが、胸中は戦々恐々として落ち着かない。ここで機嫌を損ねられて遠ざけられる未来は避けたい。

 侍女たちは音もなく流れる動作で僕とエリエス兄上のお茶を用意すると、侍女も兄上の後ろにいた従者二人も部屋を出て行ってしまった。


「まぁ、まぁ、まぁ!本当にアトラエル様?こんなに大きくなられて!」


 先ほどまでの落ち着いた知的な雰囲気はどこにいったのか、リリエラーデ様は満面の笑みで僕を見つめていた。ローテーブルを挟んで、身を乗り出すようにして僕の手を両手で包み込んできた。あまりの勢いに反応がやや遅れてしまったが、これはつまり僕に対して悪感情を持っていないという認識で良いのだろうか。正妃に対してはまだわからないが。


「母上少し落ち着いてください。アトラエルが驚いています」

「あら、ごめんなさい。だってこんなに可愛い子が会いに来てくれただなんて、うれしいじゃない」


 リリエラーデ様はそう言って、ゆっくりと両手で包んでいた僕の手を離した。ころころと笑う姿はお茶目で、周りの緊張を解きほぐしてくれる温かな方だった。今更だが、侍女たちを下げさせたのは派閥間の軋轢に配慮してのことだと気づいた。敵対といってもいい両派閥の王子と妃が仲睦まじくしているのは、色々と問題があるのかもしれない。つくづく面倒だ。


「アトラエル様、どうか私のことはリリエラーデと名前でお呼びくださいな」

「わかりました。リリエラーデさま、ぼくもお会いできてうれしいです」

「まぁ!」


 今日、直接お会いしてみて僕は痛感した。兄上たちだの死だけではない、この方の死も絶対に回避しなければならない。でないとエリエス兄上たちの笑顔まで曇ってしまう。そんなのはダメだ。

 それにしても、彼女の印象は前世で聞いた噂と全くかけ離れているように思う。なぜあんなにも悪様に言われていたのだろうか。


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