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11 前世の事件

 ーーーこの場所は母上が生前、よく訪れていたお気に入りの場所なんだ。


 王城から少し離れた小高い丘。一面を青々とした草原が覆い、夏になれば青い小さな花が咲くのだとエリエス兄上が教えてくれた。丘から見下ろせる景色は雄大な自然が広がっていた。その景色を一望できる場所にその墓はたてられていた。


 ーーーこの森の先に、母上の生まれ育った領があるんだよ。


 王都より南に位置するアルミ領は自然豊かな土地だ。その領地を治めるフィルクス伯爵家が、側妃リリエラーデ様の生家にあたる。正妃リトヴィアナがこの国に嫁いできてから二年後に側妃となり、翌年には第一王子と第二王子を設けている。正妃に子ができるのはそのさらに七年後となるから、どちらに国王の関心がむいているかなど、国内の貴族たちには周知の事実となっていた。国王の寵愛を受ける側妃という存在は、たとえ生家が伯爵という微妙な位置にあったとしても影響が大きかったのだと思う。


 第三王子アトラエルが高熱に倒れ、奇跡的な回復を遂げた同じ年、リリエラーデ様は毒殺された。

 国王の寵愛を得られなかった正妃の嫉妬によって殺されたのだと、そんな噂が城内でまことしやかにささやかれた。それにより、ただでさえ他国出身で後ろ盾の少ない正妃の立場は、さらに悪くなった。元々王城に居つかず、外交を中心に王都外で活動することの多かった正妃だったが、側妃毒殺事件以降は公式行事でしか城に姿を現さないほどだった。


「今年中にリリエラーデ様が毒殺される」


 中庭に戻ったあと、案の定僕を探し回っていたランスからお叱りをいただき、小休憩として中庭でお茶を淹れてもらっていた。ランスはお茶を淹れるのも上手いようだ。

 本当にどうして、こんなにも優秀な執事のことを前世含め覚えていなかったのだろうか。離宮の執事をしていたなら特に身近な存在だろうに。

 ああ、思考が逸れた。今はリリエラーデ様のことをなんとかしなければ。

 どうすれば毒殺を防げるだろうか。そもそも毒殺の方法にもいろいろある。それをある程度絞りこんでおかないと、全ての事柄に警戒し続けるのは無理だ。今は初夏。長ければあと半年もあるのだから。


「ねぇランス、兄上たちのお母上様はこの城にいるのですか?」

「はい、その通りでございますよ」

「お名前はなんというのですか?」

「リリエラーデ様です」


 僕はリリエラーデ様を肖像画でしか知らない。ただ彼女に関する噂ならば聞いたことがある。

 側妃リリエラーデはとても神経質で、出されたお茶や菓子も必ず専属の侍女が毒味をしなければ、彼女は一口たりとも口にすることはない。時には厨房にまで口を出し、彼女の出身領地の食材しか使うことを許さない。出身領地を独立した国とでも思っているのか、伯爵の出がまるで一国の姫のような振る舞いだ、と。

 今世はできるだけ交流をもって、不測の事態に備えておきたい。敵が誰かわからない以上、身内の結束は固めておいた方が良いと思うのだけれど。

 リリエラーデ様が亡くなったあと流れた噂によれば、それが真実かどうかは置いておいて、正妃である僕の母上が関与したと思われる何かがあったのかもしれない。妃が互いに険悪だったのだとしたら、そもそも僕に会ってもくれないかも。


「リリエラーデ様にお会いすることはできますか?」

「それは……」


 それまで淡々と答えてくれていたランスが、難しい顔をして口を噤んでしまった。

 やはり無理だろうか。最悪、偶然を装ってリリエラーデ様の私室に忍び込んで会おう、などとを考えながらランスの答えを待った。

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