10 思い出せ
今はどこにいるのかわからない。前世で『アトラエル』と呼ばれていた、僕と同じ容姿の『彼』。
「まだ誰にも見つからないでいてくれるといいんだけど」
できることなら僕個人が保護したい。そうすれば『彼』に関するありとあらゆる不穏な可能性が一気になくなる。それに僕が保護できれば、僕の影武者として使えるかもしれない。
貴族名簿をもとの棚に戻し保管庫を出る。少し考え込んでしまったが、いなくなった僕を大々的に探している様子もないから、さほど時間も経っていないのだろう。
僕の暗殺を目論んだ黒幕の特定には至らなかったが、そこまでははじめから期待していない。それに貴族の名と各派閥を思い出せたのはよかった。この先も僕を暗殺するという前提で観察した方が、気づくこともあるだろう。それに僕だけじゃない。兄上二人も……
ーーー…亡くなったのは、ああ、ちょうど僕たちが初めてアトラエルと会った年だ。
ーーーその時はアトラエルが生死の境をさまようほどの高熱を出したって聞いてね。
ふいに前世の記憶が頭に浮かんだ。これはエリエス兄上との会話だ。どうして突然これを思い出したのだろう。僕と兄上が初めて会ったというのはついこの前のことだ。
つまり今年誰かが亡くなる。誰のことだ。思い出せ。
あの会話はどんな状況で交わされた?エリエス兄上は今よりもう少し大きかった。会話は僕とエリエス兄上の二人だけ。なら亡くなったのはウリエク兄上?いや違う。僕はウリエク兄上のもっと大きく成長した姿を知っている。なら誰が、あの会話は外だった。雲一つない青空で、目の前には石碑みたいな……ああ、あれは墓だ。この場所にいるエリエス兄上は、いつもの優し気な笑顔が曇るのだ。
ーーーここで眠っている方に、僕は会ったことはありますか?
ーーーいや、もしかしたらなかったかもしれないね。
ーーー母上が亡くなったのは、ああ、ちょうど僕たちが初めてアトラエルと会った年だ。




