2話 町でのデート
今日はあかりとのデート当日だ。
二人の集合場所は大きな公園の木の下にした。
少し早い時間に集合場所に向かうと、そこにはすでにあかりがいた。
「やっほー、ゆうくん!」
「ごめんごめん、待たせたね」
わざとらしく「けっこうまったよー!」なんていってくるものだから、ついつい笑いがこぼれてしまう。
俺の彼女は可愛い。
見た目はもちろんそうなのだが、服装もよく似合っている。
蒼いワンピースに小さい鞄。
普段のボーイッシュ然とした感じよりも、清楚な少女といった雰囲気が強い。
「それじゃあ店に行くか」
「今回の店は多分おいしいよー」
「まだどんなものなのかよく知らないな」
「えー、最近SNSで話題だよ! こんな感じのドリンク!」
そういってあかりは、SNSに載っているドリンクの写真を見せてくる。
「なんか角砂糖が一杯見えるんだけど……」
大きなグラスに溶け切らない角砂糖が大量に入って、さらにその上から小豆がドバドバ乗っている、とてつもない呪物にひいた。こりゃ飲んだらやばいだろ。
「これが今人気なの!」
「こんなのが流行ったら街中、糖尿病だらけになりそうだが」
「そんなの気にしてたら負けなのー、とにかく行くよー!」
あかりはぷんぷんという擬音が似合いそうな音を出しながら俺の腕を引っ張っていく。
☆
店に入ると、かわいらしい店員がてきぱきと出迎えをしてくれた。
「いらっしゃいませー、何名様でしょうか……2名様ですねーーーー」
席に着くと、メニューを開いてみる。
結構いろいろなメニューがあるんだな。とはいえ、どれも飲むと糖分過多で死にそうなものばかりだな。
流行に疎い俺にはついていけないや。
あ、でもこのオムライスはおいしそうだな。
メニューを眺めて考えてると、彼女はさっさと店員を呼んで注文を始めた。
「じゃあこの小豆天使スペシャルをカップル割でお願いします! ゆうくんは他に注文ある?」
「いや、飲み物だけでいいよ。食事はまた後で」
「おけおけ」と反応する彼女に微笑む。
ふとかばんを見てみれば、【戦勝祈願】と書かれたお守りが、ついているのを発見した。
「だれか戦争に行ってるの?」
「ん、ああこれね。お兄ちゃんがね……」
少し悲しそうな顔をして彼女はうつむいた。
最近の戦況はあまりよくないと聞く。
詳しい情報はなかなか入ってこないが、海の向こうでは悲惨だといううわさは聞く。
「まあ、こんな話してても楽しくないよね」
ふと、何かを見つけた彼女は声を上げた。
「あれもしかして七雫さんじゃない」
彼女が指さす先を見てみると、窓の外に女の人が歩いていた。
烏の濡れ羽の色のようにつややかな黒髪を腰までまっすぐ蓄え、長いまつげが大きな目を彩っている。
モデル体型で、華麗に歩く彼女は、学校でもよく話題に上がる七雫麗だ。
「うわー彼女が外にいるところ初めて見た。すごい美人だよね。ゆうくんもあんな子がよかったりしてー」
一学年上の七雫は、俺たちの学年でも人気だ。
美しい容姿もさることながら、あまり人としゃべらないことから、一種の特別性を得ている。
特に男子の間で下世話な話題に出されることの多い彼女であるが、実際に浮いた話などは一度もない。
「七雫さんって誰かと話してるの見たことないよね。私生活ってどうなってるんだろうね」
なんて彼女の発言にうんうんと適当に相槌を打つ。
ふと七雫のほうを見てみると
「・・・・・・!!」
「ねえねえ、もしかしてこっち見たんじゃないのかな。やっぱ可愛いなぁ」
「ああ、そうだな」
「ちょっとうわの空じゃない。美人だからって鼻の下伸ばしてるとひっぱたくよー」
ちょっとびっくりしたな。
むこう、俺に気づいたのかな。でも、俺と七雫はもう仲良くないし、自意識過剰だったら恥ずかしいし、声掛けに行くのはやめとこう。
「美人が見れて眼福だったよ。それより飲み物くるぞ」
「わあ、きたきた。でっかいなー」
話し込んでる間に、店員が飲み物を両手で持って運んできた。
大きなグラスに注がれたコーヒーに大量の角砂糖、小豆が載せられて、ストローとスプーンが添えられている。
圧巻の飲み物を二人で少しずつ切り崩しながら、今日のデートは終えた。
この後にご飯と考えていたが、おなかがいっぱいになってしまって今日はあきらめた。
☆
「じゃあまた今度ねー」
あかりと別れた後、まっすぐ帰路につく。
食べ盛りのはずだが、お腹がもたれた気がする。
運動してカロリー消費しないとなぁ、と考えていると俺の家の前に誰かいることに気づく。
「あ、お前はーー」
彼女は端正な表情をピクリとも動かさずに俺に言った。
「ひさしぶり、ゆう。遊びに来た」