第7話 第6話の書き直し
「これは明るい物語にするための前置きとしての暗い物語だ」。新たな編集者ペルピーズを退けるための言葉を存分に振るうボーン。のびのびと創作活動を続けていると銭湯で「流れるカニカマボコの冒険」と言う作品で有名なモッチー監督と出会った。
俺はモッチーと共に彼の別荘へ付いて行った。彼の家は1階がガレージ(車は置いてなかった)で、2階は元々誰かが住んでいた場所に適当に住んでいると言う様な生活感の無さだった。部屋にはほんの気持ち程度に流カマの本や玩具が置いてある。
棚には数本ぐらいお酒が置いてあってそれを飲むか尋ねられた。帰りがあるので遠慮すると彼は自分の分を飲みだした。
「以前、試写会で耐火ジェル塗って自身に火を点けて登壇したって話聞きましたけど本当ですか?」
「ホントだよ。ああやって現れたらずっとあの場に引き留められないだろ?俺はさっさと帰りたかったんだよ」
「でも炎上したりして売り上げに影響あったらって心配になったりしません?」
「撮影で忙しかったからいい加減に休ましてくれってずっと言ってたんだ。無理に殺人的なスケジュールを組むもんだからああやって『いい加減にしろ』ってお上に訴えたんだよ。大体映像作品を作るまでが俺の仕事なんであって営業は俺の仕事じゃねえ」
作品を作るために綿密なスケジュールを立ててどこの国のどこに飛んだりして、スケジュール変更があってはやむを得ず別の場所での撮影をしなきゃいけなくなったり、苦労して撮影したシーンが編集時にはテンポの悪さで結局はカットしなきゃいけなくなったり、現地民とトラブルが起きたりと色々と話してくれた。単なる難癖な事もあればどこから情報が漏れたか撮影地や宿泊施設に突撃されてPRに観光地のカットを挟めないか頼まれたりする事もしばしばあるようだ。
その他にも他国に飛ぶと宿泊予定の施設で予約した部屋が使えないだの、水道がトラブル起きてて使えないだの、中には宿泊施設そのものが潰れていただの、足元を見て宿泊料金を値上げ交渉して来るだの軽微な物から重大な物まであらゆるトラブルが発生するのだそうだ。
食べ物の安全基準も異なれば衛生観念も異なるので撮影の国や場所によっては食料や水は持参してそれを飲み食いしなければならず現地の物を一切口に入れない事もあるらしい。モッチーや一部の鉄の胃袋持ちのスタッフは会社の指示を無視して食べに行く事もしばしばあるそうだが。
「ホテルに泊まればシャワーは当然の様に壊れてる、撮影が終わって疲れて眠ればギャングの抗争、朝は目覚まし代わりの宗教歌の大合唱、朝食で列に並べばガラの悪い獣人が様に割り込んで来る、年寄りエルフが店員を捕まえて並べてある料理を指差して『俺は宗教上の理由でこれが食えないんだ!下げてくれ!』って怒鳴り散らす。これが大変なのよ」
「自伝とか書かないんですか?」
「書けないのよそれが。下手な事を書いたら撮影許可くれなくなったりするからね。流カマ自体が長寿コンテンツだし猶更色んな所と仲良くしてなきゃいけない。それに俺何言っても燃えるしね。適当にその辺の川で撮ってたのが懐かしいよ」
「そう言えば動画投稿サイトに個人製作の映像を投稿してたのが始まりでしたね」
「うんうん、そうそう」
そう言うとモッチーは何やら近くの棚をごそごそと探す。しばらくはそうしていたがやがてディスクらしい物を見つけるとそれを近くのノートパソコンに読み込ませ近くのモニターにつなぐ。やがて映像が映った。画面にはカニカマボコが流れるだけの動画が流れる。モッチーは子供っぽい笑顔を浮かべて座る。
イマイチどういうリアクションをしていいか分からないまま座っていたがふと気がついた。俺がよく見る流カマは三郎監督の製作する以前のモッチーの作風に寄せた物だが、これは…一言で言うなら日頃見る流カマよりも作りが粗く洗練されていない。何より画質も低いしこれは…。
「個人製作時代の物ですか?」
「そうそう。いまいちピンと来なくて没にした奴。動画サイトにも流カマ展にも出てない。まぁあの時代の作品はどれも殆ど同じ川で撮ってたから似たり寄ったり。あの頃はまだ撮り方に試行錯誤してたんだ」
「滅茶苦茶レアな映像じゃないですか…」
「没にするだけあって大して面白くもないんだけどね」
正直に言って多分どれ見ても俺には違いが分からないと思う。ここにラグドールがいたなら細かい点で気付く事も多いんだろうが…。強いて言えば時々モッチーの影らしい物が映り込んでいる事に気付くぐらいだろうか。
しばらくは黙って一緒に流カマを眺めていたが、ふとモッチーの方を向くと目を細めて懐かしい友人にでも会った様な優しい表情になっているのが見えた。彼も自身の作品について色々と思う事があるんだろう。
「モッチー監督は流カマが好きですか?」
「おかしな事を聞くね。普通は好きって答えそうなもんだけど」
「実は…」
俺はモッチーに自身について話した。小説家である事や双眸の涙と言う作品を巡ってのあれこれや苦労の事。モッチーは話が終わるまで口を挟まずにお酒を飲みながら聞いていた。
「俺は双眸の涙が好きです。原作も今書いてる方も。でももし、こんな調子で無茶な要求が続いたら…作品を愛し続ける事ができるか分からないんです」
モッチーは酒瓶を一本あけると一息ついてその場に置いた。
「…さっきの質問だけど俺は流カマが好きだよ。でもその作品でお金を稼ぐと心に決めたらある程度は線引きして割り切っておいた方がいい。よく聞かれるんだ。なんで流カマの作風変えたのかって。その方が売れるからだよ」
そう言えば以前ラグドールが言っていたな、新参を取り込むために古参を切り捨てたって。
「でも、三郎監督の作る流カマもウケがいいんですよね?」
「ああ。新しい流カマに古参ファンが憤慨するのは予想済みだったよ。だから三郎と話を付けて古い作風の流カマを別に作る話を進めておいたんだ。ネットじゃ俺と三郎と不仲説が出てるけど親友だよ。上手く新参も古参もゲットできた訳だな」
話をいったん区切ると近くの棚まで行って新しいお酒を選び始める。
「物を作るってのにはとにかくお金がかかってなあ。社員を食わせて行くためにも金がいる。スポンサーや配給会社の顔色を窺わんといかん。あちらも我が社ではこんな取り組みしてますって映画を通してPRをしたいのな。次々に要求が飛んでくるのよ。いいか、カニカマボコが川を流れるだけの作品にだよ。相手は映像制作のトーシロだ。何も知らん。要求は簡単な物から無理難題なものまで沢山だ。他の映画に飛んでくる要求を考えると気苦労が計り知れない」
そう言って彼は選んだ酒をラッパ飲みし、こちらに戻りながら今までどんな要求をされたか事細かに教えてくれた。カニカマを流すのは最近問題になっているから別の物を流そうとか、そもそも川に流す以外の物語を作ろうとか、肝心な所で社名がドーンと映るカットが欲しいとか、問題の動画投稿者をモデルに天罰が下るような内容にして欲しいとか、エルフがカニカマを落とした人間に説教して取りに行かせるシーンが欲しいとか、まあそんな感じだった。
例の炎上挨拶の試写会の後も大量の訂正案が来て編集したりスケジュール的に現地で撮れそうにない時は大慌てでスタジオに再現したセットを作って撮り直しをしたりしてドタバタしたりとかそんな話もしていた。
「トモツキ社は映像制作会社じゃないが作品を出版するにあたって色んな会社と仲良くしなきゃならない点は変わらん。もしアニメ化するんだったら放送局からも要求が来るもんなんだ。内容によっちゃせっかく作ったのにお蔵入りするからな。トモツキ社も別に嫌がらせのためにお前に無理難題を押し付けてる訳じゃないと思うぞ」
モッチーはそう言うと酒瓶を口に付け傾けようとし、やはりやめて机に置いた。
「だが俺も作り手として何のこだわりや意地がない訳じゃない。どうしても受け入れられない事は突っぱねる。自分が正しいって思った事は安易に譲歩しない。俺は今まで主体性のない奴と自己主張の弱い奴は全員食い物にして来た。ただでさえ映画製作で手一杯なのに身勝手な要求をして来る怪物がごまんといるんだ。いちいち小さな声まで聞いていられないよ。トモツキ社がお前を軽んじてていい加減な扱いをしてる可能性も充分にある。お前は結局あれから本社の人間に問い合わせる事もしなかったんだろ?」
「まあ…確かに」
「俺が週刊一秋のお偉いさんだったら今でもキールケをお前に付けてるよ。お前はキールケに強く当たれないしな。上に直接談判しに行く事もしないし」
「……………」
非常に痛い所を突かれて何も言えなかった。そして俺が黙っている間モッチーもしばらく一緒に黙っていた理由もわかった。モッチーは本来ここで俺が何か反論するタイミングを与えている。しかし俺は何も言い返せない。それこそが俺がここまで困るに至った原因であり、何も状況が改善しない原因そのものだと彼は言いたいのだ。
やがてモッチーはまたお酒を傾けた。そしてソファに座りながらだらんと脱力して天井を見上げて言う。
「作品って言うのは良くも悪くも多くの人の心を動かすんだ。俺は作りたい物を作っただけだ!後は知らねー!とも簡単には言えない。影響ある立場になると特にな。流カマも今年で493作目だけどそのネームバリューに肖って自主制作で流カマ動画を作る奴が後を絶たない。食べ物を粗末にする若人が続出するのは流カマのせいだって社会問題になっててな。俺も注意喚起はしてるけどアマチュア時代は本物流してたからなぁ…」
「銭湯で子供達に渡してたあの玩具もそうした対策のためですか?」
「まあそんな所。川にカニカマを流そうとするお子様もそこそこいたらしいからな。川で失くしても1か月で微生物に分解される。以前実際に撮影に使う様な大人向けのカニカマも作ったけど値段が高いからそもそも本物を流す様なモラルの低い奴はどちらも見向きもしなかった」
SNSのインフルエンサーや動画投稿者に頼んでPRしてもらいちゃんと売り上げは出たものの、元より問題行動を起こしていた様な動画投稿者は見向きもせずに本物のカニカマを流し続けていた。本物を流す子供は確かに減ったものの流カマを良く思わない人々はやはり少なくなく評価が見直される事もなかった。
モッチーはため息を付いて椅子に深く座ると項垂れた。
「こんなに大々的に注意喚起して本物のカニカマボコ流してる様なモラルの低い奴は別に流カマと出会ってなくても他に問題行動起こしてたと思うけどなぁ…なんてSNSじゃ口が裂けても言えん。表現者って辛いな…」
日も暮れて少しずつ暗くなって来たので俺は程よい所でモッチーに別れを告げて自宅に向かった。ラグドールの話を聞く限りモッチーと言う三本毛族は好きなままに作品を作っていると思っていたが、思っていたより難しい立場にいる様だった。まさか作り手側との対話でトモツキ社やペルピーズの境遇について考える事になるとは思わなかった。
作品は良くも悪くも影響を及ぼす。トモツキ社も何も単なる悪意で俺に作品の設定変更を迫った訳ではない。俺の作品を通してエルフや獣人のイメージ改善を行ったりしたかったのかもしれない。それなのに俺は自分の作品を捻じ曲げられる事をただただ嫌がっていた。
「…いや、それならそうとちゃんと説明すべきじゃないのか?」
思わず独り言が出た。そう言えばキールケから設定変更についての紙を見せられた時もどういう意図でそうした変更をするのかは書いてなかった。それについてちゃんとした説明があれば俺の不満も今ほどではなかったのでは?それに関して言えば会社の不備と言わざるを得ない。
「帰ったらペルピーズに…」
頭の中にペルピーズの顔が思い浮かぶ。ああ…多分ペルピーズは何も知らされてないな。じゃあキールケに…。いやあいつは今は俺の編集者じゃないから下手に仕事を増やしたくないし。そうだな、ペルピーズに聞いてもらおう。その方がいい。
俺は楽しそうに全身に泥を塗りたくった男と一緒にブランコで遊ぶホッチキスの針の横を通って自宅に帰ると俺は早速とペルピーズに話をしようと思ったが彼は再びラグドールに捕まり流カマを見せられていてとても話を聞ける状態ではなかった。ポケットサイズのD地区が我が家にある。
今は仕方がないと思い2階にあがりパソコンをつけた。起動時間まで暇なのでSNSでも開こうとスマホを見ると不在着信が3件もある。誰かと思い見て見るとトモツキ社社長のリンザーからだった。何用だろう。…よし、この際だ。俺からもガツンと言ってやる。俺は社長に電話した。
『馬鹿野郎!!!!!なんて事してくれたんだ!!!!!!!!!』
いきなり怒鳴られて鼓膜が破けたかと思った。良く分からないが大変ご立腹のご様子だ。俺はおそるおそる耳を戻す。
「えっと…なんて事とは…」
『どうしてファイマーを殺したんだ!!!!!!トライアスタ―の現会長のマドアキがカンカンに怒ってるじゃあないか!!!!!!!!!』
トライアスタ―は世界を跨ぐ大手ネットショップ兼大型ショッピングモールの運営会社だ。確か前会長が降りて社長が会長なったから…そう言えば現会長はエルフだのマドアキになったんだった。
「いや、あの…それは…」
『言い訳するなあああああああああああああ!!!!トライアスタ―が我が社の商品を取り扱ってくれなくなったらあああああああああああ我が社の総収益の3割が消し飛ぶんだぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!』
「ひいっ!!」
週刊一秋のみならまだしも、トモツキ社の総収益の3割はいくらなんでもヤバい。うちの会社をトライアスタ―ほど大きな会社とは言わないが三郎ランドと言う国では決して小さな会社ではないのだ。
「し、しかしそんなの杞憂ですよ。トモツキ社の商品を取り扱わないとなったらそれもトライアスタ―にとっても損になるんじゃないんですか?」
『お前はトライアスタ―と言う会社を分かってなああああああああああああああああああああい!!!!トライアスタ―という会社はなああああああああああああああああああ!!!大赤字覚悟で色んな事業に手を伸ばしては中小企業をぶっ潰して回りいいいいいいいいいいいい!!!!競争相手がいなくなった所で値段を吊り上げる様な事を平気でやるクソ会社だああああああああああああああああ!!!!見せしめに我が社を切るぐらいは普通にやるんだよおおおおおおおお!!!!!』
「そ、そんな滅茶苦茶な…。よく経営破綻しないですね…」
『いや実際ほぼ破綻してたぞ。莫大な利益はちゃんと上げ続けるから資産家は金は投げ込むし倒れて貰っては困る連中が支えてただけであらゆる訴訟を起こされて債務超過は起こしてたしいつ破産してもおかしくない自転車操業だった。あらゆる企業や会社を食い荒らして回りながら足を止めればその日に死ぬ様な有様はもうそういう祟り神か何かのようだったぞ』
「なにそれこわい」
『手を伸ばした先で三郎グループの関連企業も撤退しまくってたから勝てると思ったんだろうな。本腰入れて潰すためにやった一世一代の経営戦略が出端を挫かれ会社を丸ごと買収されたんだ』
「なにそれこわい」
『いいかボーン。俺達の社命は他人の首が固定されてる弾頭台の刃を支える紐で縄跳びして遊ぶような御仁に握られているんだ。そんな恐ろしいお方の機嫌をお前は損ねてしまったんだぞ。三郎グループの経営指導は入ってるが凶暴な本質は変わらん』
「何と言うか本当にすみません」
『分かってくれたらいいんだ♪あれでGOサインを出したバカ息子にも問題があるしね。みっちり説教するから連れて帰る。私も焦って全話読んだがまだ非公開の6話は駄目だ。書き直せ。何としても自然な感じでファイマーを復活させる展開にするのだ』
「は、はい…」
電話が切れる。6話公開までもう時間がない。俺は急いでパソコンに向き合うと6話の代わりになる新しいファイルを作った。しかし一体どんな内容にすればいいのだろう。5話の時点でファイマーは背後から刺され刃は貫通し、その上に首まで斬られている。一体どうやって復活させればいい??
復活魔法を出せばすぐにでも復活させられる。しかし1つ扱いを誤れば世界のバランスが崩壊するような物をどうやって登場させればいい??当然ながら扱える者は極めて少なくてはならない。例えばヒュマニ大陸でたった1人しか使えないとか。しかし大陸で1人しか使えない魔法がどうやって後世まで伝承されたのだろうか??いつ生まれた事にすれば適切なのだろうか??そんな魔法使いがどんな経緯で現れどうやってファイマーを復活させれば自然な流れになるだろうか?
しかもただ復活すればいいだけではない。トライアスタ―の会長マドアキが気に入るような内容にしなければならない…。
あれこれ悩んでいるとズドン、バキバキッと近所で物凄い音がした。何か非常に大きなものが落ちて来て建物を破壊した様な音だ。爆発音まで伴わないのは珍しいので俺はその音を確認しに外に出た。外には10mぐらいのミサイルが誰も住んでいない家に突き刺さっており、近くにはトモツキ社社長のリンザーがいた。
「しゃ、社長!??何やってるんですか!」
「どうもこうもない。社長と言う立場はたったの1秒の無駄も許されない立場なのだ。故にミサイルに乗って来た。D地区はいい所だ。家にミサイルを突き刺してもクレーム1つ来ない。私も別荘をここに構えようかな」
「ええ…」
リンザーはずかずかと俺の家にあがると彼の息子のペルピーズを発見する。ペルピーズはぴょんと跳び上がると屈託のない笑みを浮かべてリンザーの方に駆け寄る。
「パパ上~♪」
『このバカ息子があああああああああああああああああああ!!!お前と言う者がありながらああああああああああああああ何だこの体たらくはああああああああああああああああああああああああああ!!!AIリンザー説教12時間コースだああああああああああああああああああああああ!!!!!!!』
「ぴぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
ペルピーズは鳥の様な甲高い声を挙げて逃げようとするがすぐに捕まる。足をバタバタさせて抵抗するがリンザーはビクともしない。彼はそのまま外に連れて行かれた。それから彼はリュックからバズーカの様な物を取り出す。それを空に向かって放つと紐のついた玉の様な物が射出され空中で膨れ上がりアドバルーンの様な物になった。社長は紐をバズーカの様な物から切り離すと紐の先に付いたフックをスーツのベルトに取り付けた。一体何をしようと言うのだろう。
上空のバルーンを眺めているとリンザーは小冊子を取り出して俺に手渡して来た。
「ボーン。これはマドアキ会長が好きそうな作品を簡単にまとめたものだ。時間がなかったので本当に大雑把だが参考にはなるだろう。ではさらばだ」
「ボーン!助けて!吾輩やだ!」
困惑していると上空から風を切る音が聞こえた。次の瞬間、リンザーとペルピーズの体は目にも止まらぬ速度で空へ飛んで行った。見上げると上空には戦闘機がB地区に向かって飛んでおり彼らはまるでバルーンごとそれに引っ張られる様に飛んでいた。なんなんだ。
いつまでもここに立ってても仕方がないので家に戻るとリンザーに渡された書類を確認する。家に帰って書類に書いてある作品などを確認した。いずれもセクシーなエルフが登場し多くが重要な役として活躍している。
丁寧にSNSのリンクまで書いてあったので確認する。リンザーの言う通り俺の作品でファイマーが死んだ事に怒っている様だ。俺はスマホをソファに向かって投げて机に突っ伏した。
「俺は一体どうすればいいんだよ…」
お酒に頼ってもデビルドリンクを飲んでもいいアイデアが思い浮かびそうにない。俺は頭を掻き毟った。しかも結局気圧されて何も言えなかったし。
「クソぉ!一体どうすればいいんだ!!!」
俺は立ち上がりキーボードをどけると机に頭を打ち付けた。
「どうすればいいんだ!どうすればいいんだ!!どうすればいいんだ!!!ちくしょおおおおおおお!!!!」
「ボーン…」
ラグドールが俺の肩を掴んだ。
「放っておいてくれ。アイデアが全然湧かないんだ」
「何か行き詰ったんだろう?僕に相談してごらんよ」
俺はしばらく黙っていたが今は猫の手でも借りたいぐらいの気持ちだった。ラグドールは俺を居間に連れて行くと椅子に座らせ水の入ったコップを俺に渡した。ラグドールは双眸の涙を読んでいない。俺はまず原作の内容と改変の内容をできるだけ分かりやすく説明した。それからどんな問題に直面しているかも伝えた。彼は口を挟まずにうんうんと頷いて俺の話を聞いていた。俺は改めて自身が直面している問題の大きさに頭を抱え掻き毟る。
「一体どうしたらいいんだ…」
ラグドールが俺の肩にポンと手を置いた。顔を上げると彼は優し気な笑顔を浮かべた。
「別に復活魔法がなくても復活させる方法があるよ」
「一体どうやって…」
「ファイマーの正体を女神フィオーラにするんだよ。フィオーラは空を飛ぶ羽を失い親族からの迎えを待つ他になく石像になった。しかし悠久の時を過ごすのは酷く退屈だ。長命種であるエルフに擬態した分身を用意し他種族を欺きながら過ごしていたんだ。ファビスターの復活を知ったファイマーは急いで自分の身体を取り戻すため行動を起こしていた。こんな感じでどうかな?」
「それだ!!!!」
その手があった!!そうだ、ファイマーが女神フィオーラだったならこれまでの奇行にも説明がつくぞ。自身の体を置いて外を旅していたらいつの間にかトロエマニがディングルディル聖堂を作ってしまっていて自身にさえ身体の元に辿り着くのが困難になっていた。そこでやむを得ずドラゴス教団に入って入れ知恵を行い何とか石像の元に辿り着けるように仕組もうとした。
しかし作戦がそろそろ上手く行くとなるとドラゴス教団のトップはファイマーが邪魔になり裏切り者認定して殺害する事にした。ファイマーはドラゴス教団らしい振る舞いを続けながら暗殺者の手を逃れ各地を転々とした。そこに会ったのがドラゴン殺しの末裔のミヘラだった。ファイマーはドラゴス教団を利用して石像に近付くのを諦め彼女を利用して自身の身体を取り戻そうと画策していた所をサアキに首を刎ねられた。そんな流れだ。
サアキはファイマーの正体が女神だと知らなかった。だからその脅威の生命力を知るはずがなかった。だから…。
「凄い…するすると物語が出来上がっていくぞ!書ける、これなら書ける!!ラグドールありがとう!!愛してる!!!」
俺はラグドールに抱き着きその頬にキスをする。ラグドールは苦笑しながらされるがままになる。
「分かった分かった。僕も愛してるよ。6話の締め切りまで時間がないんだろ、1分1秒を大切にしなきゃ」
「おう!」
俺は水を飲み干すと急いで2階に上がって行った。
数千文字ぐらい何度も書き直して4日かかりますた。何度か唐突に忍者神が現れて全てハッピーエンドにしましたって事にして無理矢理最終回にしようかとも考えました。次回は双眸の涙の第6話をまるごと書き直しですね。何てタイトルしよう。第6話(改)とか?もうやっぱり忍者神を登場させるしか…