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4話

ちょっと短いです

 勝手知ったる迷宮を、階段目指して進む柊の足取りは軽い。柊の心が乗り移っているようだ。

 階段近くになり、やけに騒がしいことに気が付いた。


「まだ新人探索者が騒いでるのかな」


 スライムといえど複数倒せばレベルが上がる。特に新人であればすぐに上がり、少しばかり強くなったがために天狗になるものも少なくない。新人探索者は高校生程度が多く、若いのだ。

 そんなことを考えていた柊が階段を上がると、そこは野戦病院めいた光景が広がっていた。血だらけで臥せっている若者が複数床に転がされていた。みな剣で切られたかのようで服は血で赤く染まっている。


「おい里奈、薬はもうないのか!」

「茜パイセン、あった奴はみんな使っちゃいました!」


 茜と里奈の悲痛な声がこだました。


「ちょ、茜さん何が!」


 柊が駆け寄ると、茜が顔を向けた。


「柊! 無事だったかって、おまえまっ黒焦げじゃねえか! 服もボロボロで、なにがあった!」


 茜が血相を変えて走ってくる。


「え、あ、そっか、マハリト(大炎)で、燃えちゃったか」

マハリト(大炎)ぉ?」

「スライムキングと戦った時に、マハリト(大炎)で燃やされちゃって」

「スライムキングだぁ!?」


 茜が柊の前で屈みこんだ。そして体をペタペタ触り始める。


「怪我は」

「痛みはなくなりました」

「……火傷の跡は、なさそうだな」


 茜は大きく安堵の息を吐くと立ち上がり、ぎゅっと柊を抱きしめた。


「無事でよかった……」

「ちょ、茜さん! 痛いんですけど」

「ほらそこのバカップル! 今はそんなことしてる場合じゃねーんですけど! 大怪我で死にかけのやつがいるんですけど!」


 里奈が怒鳴り声をあげると、不承不承の茜が柊を解放した。確かに、床に寝かされている若者の脇腹が真っ赤に染まり息も浅くなっている。傷は深そうだ。


「救護の僧侶を要請してはある。ただ、スライム迷宮(ここ)で大怪我なんて想定してないから到着は遅れる」

「そ、そんな!」

「ここは安全だっていうから来たのに!」

「落ち着け。叫んでも事態は変わらない」

「友達が死にかけてて落ち付けるわけないだろ!」


 仲間だろう若者が茜に詰め寄る。茜も対応に苦慮しているようで、いつもの迫力がない。

 責任者たる茜がそう言ってしまうのはどうかと思われるがスライム迷宮で怪我、まして大怪我など、ギルド本部でも想定はしていなかった。


「あ、俺、ディアル(中回復)使えます!」

「はぁ?」


 素っ頓狂な声を上げる茜をよそに、柊は「ちょっといいかな?」と床で痛みに唸る若者の脇に膝をついた。深く息を吸い、意識を彼に集中させた。


ディアル(中回復)


 柊が唱えた呪文は正しく発動し、唸っている若者の身体が淡い青に光った。柊の脳裏にはディアル《中回復》4/5と浮かび上がる。


「うぅ……あれ、痛くない……」


 唸っていた若者は上半身を起き上がらせた。柊は確認することなく他に寝かされている若者の元に歩いていき、全員にディアル(中回復)をかけ回復させた。


「柊っち、どうしちゃったの? 悪いものでも食べた?」


 里奈がひどいことを言いながら近寄る。


「一度迷宮を封鎖する。ここにいる奴は全員ギルドに戻って指示があるまで待機。勝手に帰るなよ、帰ったら抹消するからな! 里奈は迷宮に残ってるやつがいないかリストで確認! 以上!」


 大怪我の若者が全員回復したのを確認した茜は声を張り上げた。


「りょ! ほら君たち、ギルドに戻って戻って! 珈琲とお菓子でも出すし!」


 茜の指示を聞くや里奈はすぐに新人探索者に声をかけ、戻るように促す。お菓子で釣るあたり抜け目がない。おそらく自分もおやつにするはずだ。


「柊は残ってくれ。まだ中にいるやつがいるかもしれない。何かあればお前が頼りだ」


 茜にそう言われ、柊はわかりましたと応ずる。

 お前が頼りだ。

 この一言が嬉しかった。不謹慎だったが、思わず顔がにやける。

 里奈が引率した探索者の姿が消えたころ。


「茜さん、何がありました?」

「柊、何があった?」


 ふたり同時に口を開いた。





掲示板【新人歓迎スライム迷宮スレ54】


・嵐にはティルトウェイトの祝福を

ささやき - いのり - えいしょう - ねんじろ!




:スライム迷宮で大惨事発生


:あんなとこで何が起きるんだよ


:スライムでもあふれたか?


:迷宮に地下2階が出現、探索者がコボルトに切られて死にかけ、茜の姉御がイーター野郎とラブラブの3本立て


:なんだと?


:イーターヌッ〇ロス


:このコメントは削除されました


:誰もが一度はオカズとしてお世話になる姉御のおっぱいを独占だと?


:えっちなことしたんですね?


:顔の怪我がなければ姉御は美人だよな


:引退前はモテたらしい


:逆ハーとか?


:姉御は擦れてるようで純情だぞ


:願望乙


:スライム迷宮に2階?


:現在迷宮は封鎖らしいな


:それどこ情報よ


:ギルド運営の広報にはねえな


:俺、今まさにスライム迷宮のギルドにいる。待機指示で帰れない


:レポよろ


:うそくせーなー


:何が起きてるん?


:突如地下2階への階段が現れる→無謀な新人(俺含むバカ5人)が下りる→エンカウントコボルト即斬られて友達重傷→なんとか外に逃げたところでイーターが呪文で治療→いま待機という名の監禁中


:嘘こいてんじゃねー


:イーターは無能、決まってんじゃんw


:イーターが呪文?w


:ふかしちゃいやん


:大草原不可避


:幼馴染の命を助けてもらった以上、イーターを悪く言えねえんだわ


:嘘はもっとうまくつけよ


:姉御がギルド本部に救援頼んでるって言ってたから明日には知れ渡るんじゃねーの、知らんけど


:斬られた俺様参上、死ぬかと思った、もう探索者はごめんだ


:初めては痛かったか?


:三途の川は見えたか?


:走馬灯は何だった?


:そいうやイーターもボロボロだったけど、あいつなにやってたんだ?


:しらねー、姉御とまだ中にいる


:えっちなことしてるんですね


:ざケンなイーター


:服が血だらけでこのままじゃ帰れねーんだけど


:里奈さんに相談しろ


:ついでにスリーサイズも


:里奈さんもギャルやるにはきつくなってきたよな


:おま、里奈さんにぬっ〇されるぞ


:里奈さんて暴露系の彼氏がいたよな


:あれか、カーズとかいうクズな


:とっくに別れてなかった?


:彼氏に立候補してもいいと聞いて


:里奈さんは面食い


:お前じゃ無理だ


このスレは満員になりました、次スレのご来場をお待ちしております

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