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貞操逆転世界で、承認欲求を拗らせたら。

貞操逆転した世界の日常物です。

 7月の夜空に雷鳴響く雨の日、僕は仕事帰りに運悪く雷に撃たれてあっけなく死んだ。


 即死だ。


 路上に倒れた自分の焦げた死体を上から眺めて、幽体の僕は「こりゃ生き返るのは無理だ!」と即判断する程にひどいもんだった。

 それから直ぐ、僕の近くの空間に黒い穴が現れたと思ったらすごい勢いで穴に身体が吸い込まれて、気が付くと貞操逆転した世界に何故か記憶を持ったまま転生してしまった。


 異世界転生ものの小説のように神様に合うことも無く、即転生だ。


 それから時は経ち、この世界に産まれてから16年目、僕は2度目の高校生を始めた。


 ………


 7月、衣替えで夏の制服に変わりクラスメイトの仲良しグループもほぼ決まった頃、2度目の高校生の僕は……今世も友達を作らずにぼっちで過ごしていた。


 別に寂しくなんてない、2度目の人生だからって友達作らないといけないとかの制限はないし。

 前世とこのいろいろ逆転した世界で、前の人生の価値観をもった僕が生きていく上で友達を作らずに一人で居るのは気楽で……人と関わらないぶん、思う存分好きな本を読める時間が増えて嬉しい。


「……?」


 自分の席でぼーっとラノベを読みながら、2度目の人生の回想をしていると……ふと、誰かの視線を感じた。 気になった僕は、本を読んでいるフリをしながらこっそり周りを視てみると、僕の前方に居る女子達が、頬を赤くしてこちらを盗み見るように潤んだ瞳でチラチラと見ていた。


 ―――んん? 僕を見ているのかな……?


「あの……如月さん」


 女子達の視線に心の中で首を傾げていると、近くで僕を呼ぶ声がする。

 本から顔を上げて声のしたほうに向くと、同じクラスの眼鏡をかけた男子が困り顔をして立っていた。


 ―――うーん、僕何かやっちゃったのだろうか? 別にラノベ読んでるだけだし……なんだろ?


「……何か、ようですか?」


 日常的に家族以外と会話する事もなかった僕は、他人とのコミュニケーションをおろそかにしたせいなのか流暢に言葉を発せず、どもってしまうようになった。


「暑くて蒸れるのは俺もわかるけど、えーと、その……スカートで煽ぐのは、下着が見えちゃうからさすがに止めた方が良いよ? それにほら、女子達も居るからさ」


 眼鏡の男子は少しこちらに顔を近づけてそう言い、チラッとこちらを見ている女子達の方に視線を向ける。

 女子達は、こちらの会話を聴いていたみたいで、慌てて僕の方を見ないように顔をそらしていた。


「あ……すみま、せん」


 指摘されて気が付く、どうやら僕は無意識にスカートをパタパタと煽いでたらしい。


 7月にもなって急に気温が上がって、中が蒸れるんだよね。

 僕は女子達に色白の太腿やその奥のショーツを見られたことなど特に気にする事も無く、ぱっとスカートから手を離した。

 どこからか、「あぁ……」と残念そうな声が聞こえた気がする。


 ―――男の僕がスカート履くとか、前世じゃ考えられないなぁ。

 少し乱れたヒダスカートを撫でて整えながら、僕はそう思った。


 元の世界なら男性がスカートを履いて過ごすとか、周りの人に変に思われそうだけど。 この貞操逆転した世界なら別におかしくもない……むしろ、一般常識でもある。


 この世界に産まれなおして一番に驚いたのは、男女の服装が逆転していることだ。


 少年からおっさんまでも、スカート履くのが当たり前で女性はスカートを履かずに前世の男っぽい服装をしている。 さらに下着類も逆転していて、男性はブラジャーやショーツ、女性はブラジャー無しでトランクスやボクサーパンツなど男女の服装が驚くほど逆転している。


 男性がブラジャーなど着けて意味あるの? って思うけど、この世界の男性は胸がすごく敏感らしい。

 ノーブラだと擦れて痛いとも聞いた。ドッチボールなんてもってのほかみたい。


 同じ男性なのに他人事みたいなのは、僕は前世の時と同じ肌の感覚なのでわからないからだ。

 だから僕は、ブラジャーなどつける事が煩わしいので高校生にもなってもつけていない。


 ………


「ただいま」


 家に帰ると僕はうがい手洗いを済ませて2階の自分の部屋に入り、机に菓子やペットボトルで膨らんだコンビニの袋を置きすぐに内鍵を締める。


「はぁ……まだ7月なのに、暑いなぁ」


 直ぐに窓を開けて、部屋にこもった暑い空気を入れ替える。 風で前髪が揺れた。

 僕の部屋には冷房が無いけど扇風機があるので、スイッチを入れると音をたててまわりはじめる。

 涼しい風が気持ちよく、汗がすっと引いていく。


「ふぅ……」


 落ち着いた僕はベッドに座り、スマホを取り出してSNSのツブヤッキを起動する。

 ツブヤッキは自分の思いをつぶやいたり、画像を投稿したりできるSNSだ。

 世界で一番ユーザー登録者が多く、僕も登録している。


 ツブヤッキにはつぶやきや投稿画像の下にコメント欄やグッドボタンがあり、他人が見て評価に値する内容なら、グッドボタンを押して貰える。 他ユーザーからグッドボタンを押して貰ったらツブヤッキから、何か貰えるのかというと何も貰えない。


 あるとすれば、承認欲求が満たされるだけだが……その承認欲求のために、グッドボタンを押して貰える事を目的にしている人もいる。


「フォロワーが、また増えてる……やった!」


 僕はツブヤッキで使用している漫画やアニメの感想をつぶやくアカウントとは別に、恥ずかしくて家族にも教えていない大勢のフォロワーが居る承認欲求のためだけに作った『裏垢』を持っている。


 俗に言う『裏垢男子』。


 それは何かと言うと、表のアカウントとは別に、裏のアカウントで正体がバレないようにエロい自撮り画像を投稿している男子の事だ。 男性の性欲が減衰してるこの世界で、エロに寛容な男性は珍しく。

 裏垢男子は、性欲の強い女性の方々に大人気で、コメント欄の賑わいやグッドボタンの押された回数もすごい。


 僕の裏垢もエロい自撮り画像が多く、今の家族には絶対にバレたらヤバイものばかり。

 でも、大勢のフォロワーがいるわりに、ツブヤッキで未だに正体がバレる事も無く裏垢男子をやっていけてるので、今後も大丈夫だと思う……大丈夫だと良いなぁ(希望観測)。


 ここまでの話で何故学校では友達が一人もいない僕が、注目を浴びる『裏垢』を持つ事になったのかは、中学2年生にまでさかのぼる。


 ………


 前世は漫画のモブのような人生だった僕は転生して中学生になった頃、クラスメイトが楽しそうにツブヤッキの話をしているのを聞いて僕もやってみたくなり、その日の内に早速ツブヤッキを始めてみた。


 始めは見る専門だった僕も漫画やアニメの感想をつぶやくようになって、それからツブヤッキを始めて半年後には、僕のつぶやきにコメントやグッドボタンを押して貰える喜びを覚えて、ツブヤッキにすっかりはまっていた。


 ―――コメントついたかな? 誰かグッドボタン押してくれたかな?


 寝ても覚めてもツブヤッキの事を考えて、日々僕のつぶやきにグッドボタンをたくさん押して欲しい承認欲求が高まり、他の人に評価して貰えるようなつぶやきをするようになって数ヶ月。

 それなりの人数にグッドボタンを押して貰えるようになったけど……それでも僕の承認欲求は満たされる事がなかった。


 ―――もっと、もっと欲しい……!

 グッドボタンを押さた数だけ得られる、えもいわれぬ気持ち良さに病みつきの僕。


 今までよりもっとグッドボタンを押して貰えるような何か無いかと、他の人の投稿を参考にしようとツブヤッキをじーっと眺めていると……僕の人生を変える一つの投稿に出会った。


 魔法男の子獅子丸☆【〇〇ちゃんのコスプレしてみたよ☆】


 魔法少女のコスプレをした、金髪ツインテールで170cm超える王子様風のイケメンの画像が僕の目に入った。


 その画像の投稿には、僕が今まで押して貰ったグッドボタンを合わせても足りないくらいのグッドボタンが押されていた。 コメントも多く、みんな投稿者の事を褒めたたえていて、正直彼と僕の格差に嫉妬で胸が苦しくなるほどだったけど……その時僕は気がついてしまった。


「こ、これなら僕も……!?」


 つぶやきだけでは無く……僕もイケメンコスプレイヤーさんみたく、自撮り画像を投稿すれば、みんなからグッドボタンをたくさん押して貰えるんじゃないかと?


 一度火がつくと僕は、ネットで当時人気だったアニメキャラのコスプレをするために、ウィッグや衣装を購入した。

 前世と逆転した世界観になり、この世界の男性の服になじめなかった僕は、普段着は最低限しか持ってなかったが、承認欲求のためにもう四の五の言ってられなくなり迷わなかった。


 数日後。


 桜田トオル【初めてコスプレしてみた】

挿絵(By みてみん)

「う、うーん……まるで女の子」


 僕はベッドの上に腰を下ろして、スマホの液晶画面を眺めていた。

 スマホの液晶画面に映っているのは、恥じらうように頬を赤くして自撮りしている、腰まで艶のある髪を伸ばした胸の小さな色白の女の子。 ハンドルネームは、桜田トオル。


 もちろん画面に映っているのは、ただの女の子では無く……コスプレをした僕(♂)。 男なのに少し胸が膨らんでるように見えるのは、鳩胸だから。(ノーブラ派)


 僕は身長が男性としてはかなり低く、顔も母親の遺伝子を色濃く受け継いだためか女顔で、制服のスカートを履くだけで完全に女の子に見える。

 ……見えるが、しかしこれは前世の記憶を持ってるから、僕が自分を女の子に見えるだけで、母親に聞いてみるとちゃんと男の子に見えているらしい……。


「えーと、これに決めた」


 それはそれとして、ウィッグをかぶりアニメキャラのコスプレしたままの中学時代の僕は、自撮りした数枚の写真の中で写りが良い一枚を選び、ツブヤッキの画像投稿にセットする。


「後は……投稿する、だけ」


 そして、ツブヤッキーの投稿ボタンをすぐには押さずに、迷うかのように指を近づけたり離したりした後、ゴクリと口内に溜まった唾液を呑みこんだ。


「み、身バレ、怖いけど……グッドボタンが欲しいし」


 ―――今は、ウィッグの下にウィッグネットで地毛をまとめてるから顔が見えてるけど……普段は目が隠れるくらいに長い前髪で顔を隠してるから、顔はバレないよね? うーん……念の為に、普段のアカウントのつぶやきで身元特定されると怖いから、コスプレ画像を投稿するアカウントは別に作ったけど、何か不安……でも、がんばれ僕!


 ここまできて自撮り画像を投稿するか少し迷ったけど、ようやく覚悟を決めて僕は、息を止めて震える指先で投稿ボタンを押した。


「はぁ、はぁ……」


 僕は熱い息をつき、興奮でまるで酒に酔ったように頭がクラクラする。

 ドクンドクンと激しい心臓の高鳴りが、止まらない。


 ―――まだ投稿しただけで、何も評価されてないのにこれだ……もし、もしも僕のコスプレ画像が評価されたら……どんだけ気持ち良いんだろう?

 もうすっかり、脳内麻薬中毒者になっていた僕。


「まだかな……まだかな」

 ウィッグの艶のある長い髪を指で弄る。


 そわそわと、落ち着かない。


 ツブヤッキに投稿してフォロワーや他の人の目につくのに、若干ラグがあるみたいで僕はその時間がもどかしく感じる。

 まだ投稿して1分も経って無いのに、既に体感時間は10分以上経っている気がして僕は焦りを感じ始めた。


 スマホを持つ手にギュッと力が入り、液晶画面を凝視する。


 ピロリン♪


 グッドボタン+1、+2、+3………+50……。


「きた……!!」


 スマホのツブヤッキの通知音が止まらず、グッドボタンが押された数は僅か数分で、今までつぶやきで得たグッドボタンの最高値を超えて今も増え続ける。


 グッドボタン+70……+90……+100……。


「おっ、おぉ……おおっ……!?」


 無意識に声が漏れる。

 嬉しさのあまり頬が勝手にゆるむ。

 僕は今まで押された事のないグッドボタンの数に、頭の中がバカになってしまえると思える程の多幸感を感じる。 急激に僕の承認欲求を、満たしていく。


『桜田トオルちゃん、かわいい!』

『可愛い』

『小学生じゃないよね? 違うか、ツブヤッキは13歳からだし』

『かわいい^^』

『お、良いじゃん』

『ちょっとお姉ちゃんとDMしない? 』

『美ショタきたきた!』


 さらに投稿された画像のコメント欄にも多くのコメントが書き込まれていて、どれも僕の事を褒めてくれるコメントばかり。

 スマホの小さな液晶画面の向こうから、称賛の声が聞こえてくるような気さえする。


 ―――顔がすごく熱い! 知らない人に、褒められるって、こんなに恥ずかしいんだ!? でも、嬉しい!!


 恥ずかしさと嬉しさと気持ち良さで、僕は服にシワができる事も気にもせず、興奮が落ち着くまでベッドの上でゴロゴロと悶え続けていた。


 幸先の良いスタートを切った僕は、この後も快楽を求めて当然投稿を続ける。

 流行りのアニメやゲームキャラのコスプレをして、みんなに称賛をもらって承認欲求を満たしてたけど……数ヶ月経ち、グッドボタンの押された数やコメント数が落ち着くと、脳内麻薬で得た快楽も少なくなり僕は物足りなさを感じ始めてきた。


 マンネリ化だ。


 ―――なんか、物足りないなぁ。んー、前につぶやいてた頃よりは、みんなに評価されてて嬉しいけど……初めてコスプレ画像を投稿した時のような、脳が壊れる程の気持ち良さを感じない。もっと……もっと気持ち良くなりたいのに!


 僕はお風呂上りで温まった身体をベッドに仰向けになって、ツブヤッキに自撮り写真を投稿してる人を眺めていると……明らかに、飛び抜けて評価されている投稿を見つけた。


「わぁ……!」


 ウルフカットのタレ目のお兄さんが、肌の露出の多い服で挑発的なポーズしている自撮り画像だ。

 胸の突起も黒い透けたショーツも見えちゃってる。

 最初は暴力的な絵面に引くぐらいびっくりした僕だけど、コメント欄を見るとちゃんと納得した。

 男女の価値観が逆転した世界で男性が露出の多い服は、この世界の女性にはエロい目で見られているらしい。


「こ、これなら……でも、恥ずかしい」


 承認欲求を満たしたい! でも、さすがにこのお兄さんみたいなエロい服を着るのはまだ抵抗がある。

 僕はうーん、うーんと唸りながら、ベッドの上でゴロゴロと左右に転がりながら悩んでいると……ふと、別にここまでエロくしなくても良いんじゃないか?と思いつく。

 視線を下げると、今の自分のかっこはTシャツにショートパンツ。


「これでも、十分エロいのでは?」


 近くに置いてあった金髪ロングのウィッグを被り、試しに一枚自撮りをしてツブヤッキに投稿してみた。


………


 エロい裏垢男子をこっそり見守るスレpart201


 1:名無しの監視者

 ツブヤッキの”エロい裏垢男子”をこっそり語るスレです。

 荒らし、個人を名指ししての誹謗中傷、対立煽りは通報又は、NG。

 新しいエロい子を見つけたら、みんなにこっそり教えてあげましょう。


 200:名無しの監視者

 ふぅ……聞いてよ、推しの子が「裏垢男子、卒業します! これからは普通の男になります!」ってつぶやいてね。 もう、もうね。 その子の始めての投稿から追ってた身としては、なんか寂しい! 涙が止まらない!


 201:名無しの監視者

 >>200

 まぁ……この界隈では、良くある話だよね。 私も推しの子が、彼女が出来たから裏垢男子止めるってつぶやいて悲しくなったなぁ。 今でもその子の画像消せてないから、未練タラタラだぁ。


 202:名無しの監視者

 また私達のエロい裏垢男子が、一人減ったのね。


 203:名無しの監視者

 需要に比べて、供給が少ないって感じる。

 アニメのコスプレの投稿までなら、割と探せば見つかるけど……エロまで行くと、なかなか見つからない。 やっぱり男の子は、エロまでのハードルが高いんだなって思った。


 204:名無しの監視者

 男子って性欲ほんと無いよねマジで。


 205:名無しの監視者

 まあ、私達女性の方が断然人数多いですし?

 男性から見たら、選びたい放題。

 ガツガツしなくても、好きな時に子供作れるから性欲少ないのはしょうがないのかな?


 206:名無しの監視者

 どこかにエロ同人みたいな、エロに寛容な男の子いないかな~?

 お姉さんが手取り足取り……うふふ。


 207:名無しの監視者

 >>206

 いないってw

 いたら、ここのみんなが知らない筈がないよ。


 208:名無しの監視者

 >>209

 ですよねーw


 209:名無しの監視者

 速報!! 新しいエロい男の子見つかる!

 桜田トオル【部屋着で一枚!】

 即フォローした!


 210:名無しの監視者

 >>209

 ふぁ!?

 こんな美ショタが、薄着で一枚とか……どうなってるの!?

 白シャツだから、ピンクの先端透けてるんだが……!!


 211:名無しの監視者

 >>209

 こんな可愛くて若い子が、エロ界隈に現れるとか……夢でも見てるのかな私?


 212:名無しの監視者

 >>209

 あわわわ……投稿初期の頃から応援してた私の推しが、エロに走ったたたたた!

 見えちゃいけないところが、透けちゃってる!?

 やったーーーーーーー!!


 213:名無しの監視者

 >>212

 嬉しいのはわかるけど、落ち着けw


 214:名無しの監視者

 一目見て、フォロー余裕でした!!


 215:名無しの監視者

 この子、アニメキャラのコスプレしてたの知ってたけど……エロ界隈に来るとか、たまげたなぁ。


 216:名無しの監視者

 お風呂上りかな? 頬が赤くて、なんかエロいね。


 217:名無しの監視者

 うはっw 桜田トオルちゃんのフォロワー、めっちゃ増えてて笑ったw

 私達、欲望に忠実すぎるだろw


 218:名無しの監視者

 そりゃ、桜田トオルちゃんクラスの美ショタがエロい自撮りを上げたと聞けば、みんなフォローしちゃうに決まってるよね?


 219:名無しの監視者

 私達は年がら年中、エロい男の子に飢えてるからしゃーない。


 220:名無しの監視者

 もっと写真みたい。


 ………


 ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪


「お、おおっ……!!」


 スマホの通知音が止まらない……!

 今さっき投稿したばかりなのに、グッドボタンを押された数が凄い事になっている。

 数字が今までにない程に凄い勢いで増える事に、脳汁がドバドバ出てスマホを持つ色白の手が小さく震えてくる。


「これが……エロの力」


 口の中に溜まった唾を、ごくりと飲み込む。


 今現在、何百人、何千人もの女の人が僕の自撮り画像を見てくれている。

 正直ただの部屋着だし、期待はあまりしてなかったけど……結果は大成功!

 ツブヤッキのフォロワーも、かなり増えて嬉しい。


『最高!』

『桜田トオルちゃんがついに……!』

『フォローしてて良かった』

『今夜使いますね』

『すごく可愛い~!』

『私の弟にしたいなぁ』

『ちょっとお姉さんと、ビデオチャットしない?』


 コメント欄も読み切れない程に書き込まれていて、感想コメントや変態コメントなども混じっていてカオスな状態になっている。


「くふふっ」


 僕は甘く笑いながら、お父さんが「夕飯だぞ~」と呼びに来るまでベッドの上でツブヤッキを眺め続けていた。


………


 時は戻り、高校生にもなった僕はあれから味を占めて、エロに偏った自撮り写真をツブヤッキに投稿し続けている。

 みんなからの評判も良くて、僕の承認欲求も満たせてここのところ、次はどんなポーズにするかどんな衣装を着るのかを考えてばかりだ。


「ねぇ、桜田トオルって知ってる?」


 ―――!?


 学校の昼休みの時間、僕はいつも通り自分の席でライトノベルを読んでいると……右隣の席の女の子達が、僕のツブヤッキのハンドルネーム【桜田トオル】の名前を口にした。

 一瞬、僕がツブヤッキに投稿しているのがバレたのかと焦って、本を持つ手にグッと力が入る。


「ツブヤッキで、裏垢男子してる子でしょ? 知ってるよー。 てか、裏垢男子の桜田トオルって有名じゃん? いろんな意味で」

「あっ、ミカも知ってたんだ! なんだー、もっと早く聞けば良かったなぁ」


 ―――なんだ、バレたんじゃないのか……そうだよ、顔は普段は前髪で隠してるし。 そんなにビクビクする必要ないよね。


 バレたんじゃないと分かると、ふっと力が抜けた。


「それでー? 桜田トオルがどしたの? ついに卒業した……とか?」

「違う違う!? トオルちゃんが卒業とか、絶対ありえないから……!? もー、ミカは変な事言わないでよぉ!」

「いたたた……ごめんごめん! それで、その桜田トオルがどうしたん?」


 隣の席だし、自分の話題なので聞き耳を立てる。

 ネットでエゴサーチもするけど、リアルでの『桜田トオル』の話を聞くのは初めてで少し緊張する。

 ツブヤッキでエロい自撮りを投稿してていまさらだけど、ネットだと自撮りの感想や夜に何回使った報告とかたいして恥ずかしくないのに……リアルで話題にされると……なんか恥ずかしくなる。


「トオルちゃんは、私の激推しの子なんだけどぉ。こんなにも裏垢男子界隈で人気なのに、リアルでの目撃情報がまーったく無いのは、なんでなのかな~って不思議に思ったからミカに聞いてみたかったのぉ 」

「あーっ……それ、あーしも気になって美少年に詳しいオタの知り合いに聞いてみたんだけどさぁ……『桜田トオル』に関しては、ネット上や伝手で調べた結果リアルの情報が全然無いんだってさ? 調べて貰ったオタの知り合い曰く『アレは、完全にリアルと仮想を分けてる。リアルの方を探すのは難易度ナイトメアかな?かな?』って言ってたわ」

「そっかー……みんな、トオルちゃんの事を知らないんだぁ。 あ~、リアルでもトオルちゃんに会いたいなぁ」


 あなたの直ぐ隣に居ますよ!と言いたくなる場面だけど、我慢する。


 ―――ふーっ、身バレ対策ちゃんとしてて良かった! 前世では化粧とか縁が無かったけど、アニメキャラのコスプレの時に、キャラの顔に寄せるために必要だったし。 化粧してた方が、顔の印象も変わって学校の僕と『桜田トオル』としての僕が繋がり難くなるからね。


 僕は長い前髪の隙間から、隣で話をしている女の子達の方に視線を向けた。


 席に座ってすらっとした長い足を組んでるのは、サイドテールで茶髪のギャルっぽい女の子。 可愛い系の顔立ちで、若干つり目で猫のような大きな瞳が驕慢そうな雰囲気を醸し出している。

 胸元がキツイのか半袖のスクールシャツのボタンを二つ程外していて、胸元を押し上げる大きな胸が深い谷間を作ってシャツの隙間から見えていた。


 もう一人は、ツーサイドアップで黒髪の女の子。 幼い顔立ちで、タレ目でぽってりとした艶のある小さな唇。 形の良いほど良い胸に、きゅっとくびれたウエスト、ズボンの上からでもわかる程のむちむちっとした大きなお尻や太腿。

 前世の世界なら、雑誌のグラビアやアイドルとしてデビューしててもおかしくは無い程の身体つきをしている。


 ―――どっちの女の子も可愛いし、前世の世界なら男達にもてはやされてた筈なんだよねぇ……この世界だと男達の性欲が薄いのと女性が多いせいで、埋もれてるのかな。 まぁ、今世もリアルはコミュ障の僕とは関わり合いになりそうにないし。 あっそうだ、時間がある内に。


 二人の女の子から、視線を外し教室の時計に目を向けると、まだ時間に余裕があるので今の内にトイレに行ってこようと本を机にしまい席を立ち一歩踏み出すと……。


「あっ」


 何時の間にか移動したのか、ちょうど黒髪の女の子が目の前を通り過ぎようとしていて、長い前髪で視界が狭かったせいで反応が遅れた僕は、思わず女の子の横から抱き着くようにぶつかってしまう。


「わぷっ……!?」

「わわわっ……♡」


 女の子も僕も、ぶつかって倒れる事はなかったけど……身長が低い僕は、思わず女の子の腕を胸に抱えるように抱き着いてしまった。 甘い匂いが鼻孔をくすぐる。

 ボディーソープと、若い女性の体臭が混じりあった香りに少しクラっとした。


「……ごめん、なさい」


 匂いで変な気分になりそうなので、僕は抱え込んだ女の子の腕を、慌てて離す。

 半袖のスクールシャツだから、女の子のほんわかと温かい腕の感触が腕に残っている。


「あっ……大丈夫、大丈夫! だからぁ、気にしないで?」


 女の子は僕が腕を離す一瞬、残念そうな表情を浮かべた気がしたけど、明るい笑顔で全然気にしてないよ?と言った。


………


 ナナミ視点


 如月君が教室から、出て行くのを見送る。


「はぁ……♡」


 肺に溜まった空気を吐き出す。

 今も私の腕には、如月君の柔らかな乳房の感触が残っている。

 若い男の子の甘い匂いとぷりぷりの感触、初めて感じる異性の胸に……私の心臓がうるさい程、ドクンドクンと鼓動している。

 お腹の奥が、物欲しそうにキュンキュンと甘く疼く。


 ―――それにしても、あの噂は本当だったんだぁ。 如月君は、ブラジャーをしてないって噂。


 如月君は、小柄で長い前髪の同い年の男の子。

 教室で一人で居る事が多くて、入学してから今まで他の男の子と仲良さそうにしてる所を私は見たことがない。 いつも本を読んでいて、弱弱しく大人しい印象。


 でも……その印象は、一緒に学校で生活する内に徐々に変わっていった。


 如月君は、隙がありすぎてエロい!

 何がエロいって、仕草や私達に下着を見られても気にしてない所や、男なのに肌に触れられても怒ったり『セクハラ』と騒がない。

 同い年くらいの男の子なら、普通は服越しでも女子に触れられるのも嫌がるし、下着を見たものなら犯罪者扱いされて総スカンされる。 なのに如月君には、それがない。


 ―――ん~、他の男の子と違ってぇ、女子に無防備すぎるのよね? なんか気になるなぁ~?


 一度気になると私は、自然と如月君の事をこっそりと目で追っていた。

 授業中、お昼休み、体育の時間、放課後などなど如月君を観察する事がいつの間にか私の日課になっていて……何時しか私は、如月君に触れてみたいと思うようになっていた。


「あれ、わざとでしょナナミ? あーしには、あの子が席を立つ瞬間を狙ってたようにしかみえないんだけどぉ? あーしとだべりながら、ずっとあの子の事を気にしてたじゃん?」


 ミカは下敷きで胸元に風を送りながら、呆れた顔で私を見る。

 私より断然大きい胸のミカは、夏場は汗をかいてすごく大変みたい。

 先週の暑い日なんて、休み時間に上全部脱いでタオルで汗を拭いてた事もあった。


「えへへ、ミカにはバレてましたかぁ」


 私は頬を掻きながら誤魔化すように、にへらと笑う。


 いつものようにミカと話ながら、私は如月君が席を立つ瞬間を狙っていた。

 他の男の子なら絶対に許されない行為だけど、如月君なら怒る事も無いとだろうと見越しての計画。

 どこかに触れれば良いなぁと思った計画は、思わぬ成果で成功した。


「ほどほどにしときなよぉ、ナナミ? やりすぎて、友達が逮捕なんて笑えないからさぁ」

「あはは……はい、気をつけまーす」


 気をつけるけど……一度味わったら、もっと欲しいと思うのは人間の性だと思う。

 

 ナナミ視点終了


………

主人公が承認欲求モンスターに進化しました。

1話目は、ノクターンの方と変わりないです。

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