卒業パーティ婚約破棄宣言阻止☆
今日は王立学園の卒業式。そして式が終わって卒業パーティ。
ハロード王太子は愛しい、男爵令嬢マリア・ホットリスと共に、パーティ会場へ入場した。
婚約者であるレティーヌ・アルベルク公爵令嬢。
彼女に婚約破棄を突き付けてやるのだ。
可愛い可愛いマリアをレティーヌは虐めているという。
そんな馬鹿な事が許されてたまるか。
そんな悪女には婚約破棄を付きつけ、可愛いマリアとの婚約を発表してやる。
ハロード王太子を見上げてくるマリア。
ピンクブロンドの髪にくりくりとした目はなんともいえず愛しくて。
思わず肩を引き寄せて優しく語り掛けてしまう。
「大丈夫だ。マリア。しっかりとあの悪女に宣言してやる。私の妻は君しかいない。」
「ありがとうございますう。マリア。嬉しいですう。」
憎たらしきレティーヌは豪華な金のドレスを着て、こちらをニコニコしながら見ている。
何故?あんなに嬉しそうなんだ?
そして、周りには大勢の男子の卒業生達が花束を持って、レティーヌを取り囲んでいる。
どういうことだ?
ハロード王太子は取り囲んでいる連中の一人。騎士団長子息チャールズをとっ捕まえて聞いてみる。
「ああ、これはハロード王太子殿下。早く婚約破棄を宣言して下さいよ。レティーヌ様と婚約破棄なさるんでしょ?」
「え?どうしてそれを?」
「皆、噂してますよーー。婚約破棄したら、私がレティーヌ様に婚約を申し込むんですから。」
「え?あの女は悪女だぞ。愛しいマリアの教科書を破ったり、階段から突き落としたりして虐めていた悪女だ。」
すると、同じく花束を持っていた宰相子息クリスが、
「何を言っているんです?レティーヌ様がそんな事するはずないでしょ。そういえば、その女、マリアでしたっけ?自分で教科書を破ったり。自分から階段を転げ落ちて行ったり、それを見た生徒がいるとの事ですな。」
騎士団長子息チャールズが、
「それ、オレオレオレ。俺が見たんだ。この女が勝手に転げ落ちて行ったぞ。どーいう事だ?」
マリアは首をぶんぶん振って、
「マリアしらなーい。この人達がマリアを陥れようとしているのぉ。信じちゃいやーー。」
すると、留学していた隣国のアレクト皇太子が、
「何だ、まだ婚約破棄を宣言していないのか?ハロードさっさとしろ。私がレティーヌに婚約申し込みが出来ないではないか。」
「へ?この女は悪女で…」
「数か国語を操り、王妃教育も終えた素晴らしいレティ―ヌを悪女だと?まぁいい。我が国に連れて帰り、是非とも皇妃になって貰う。彼女なら、恥ずかしくない立派な皇妃になることが出来る。ん?お前はこのマリアとやらを王妃にするのか?いいんじゃないのか。この女、下から数えた方が早い成績らしいが…この国の王妃にふさわしいだろう。だから、さっさとレティーヌとの婚約破棄を宣言しろ。」
ハロード王太子はマリアの方を見れば、マリアは目をウルウルさせて、
「だってぇ、お勉強難しいんもん。教科書を破られたりしたのは本当よぉ。この人達があたしを陥れようとしているのぉ。信じてぇ。」
チャールズは肩を竦めて、
「どーでもいいですけどね、あ?マリアと結婚する場合、廃嫡するって国王陛下が怒ってましたよー。こんなおバカな女では王妃は務まらないって。あ、王妃様も怒りまくっておりました。」
ふと、背後を見れば、国王陛下と王妃が凄い目つきでハロード王太子を睨んでいる。
そこへ、レティーヌの手を恭しく、握り締めている黒髪の凄い美男を発見した。
頭にネジくれた角を持つあれは、魔王である。
魔王はチラリとハロード王太子を見ると、
「早く婚約破棄を宣言しろ。私がレティーヌを連れて行く。彼女は聖女の力も持っておる。
この力、我が魔国で使わせて貰う。」
「聖女だと???魔族では嫌な力ではないのか?」
魔王は馬鹿にしたように、
「フン。我ら魔族とて、疲れたり病気になったりするのだ。彼女の力は魔族すら癒す素晴らしい聖女の力。どうか、我の妻になり、魔国の為に働いて欲しい。」
すると、銀の髪の凄く美しい男が、そう、精霊王だ。
「何を言うか。精霊の森に来て欲しい。レティーヌ。そなたは緑の守り神。精霊の森に力を与えて頂きたい。」
ハロード王太子は聞いてみる。
「緑の守り神って…」
「この国は作物が良く採れるだろう?それはレティーヌが力を注いでいるからだ。」
魔王が言葉を続ける。
「病人が少ないのもレティーヌの力のお陰だ。彼女が国全体に力を注いで守っているのだ。」
宰相子息クリスが、
「それならば、尚更、渡せない。どうかレティーヌ様。私の妻に…」
騎士団長チャールズも、
「いやいや、私の妻に…」
花束を持って立っている生徒の一人がぼそっと、
「そういえば、マリアって女、俺の友達が、褥を共にしたって言ってたな…」
アレクト皇太子が生徒に向かって、
「マリアって女が股が緩いのは有名だ。私も聞いたぞ。」
他の生徒達もウンウンと頷いて、
一人の男子生徒が、
「この間はどーも。マリアちゃん。さいこーでした。」
マリアは首をブンブン振って、
「マリアしらなーーーい。」
そして、皆はハロード王太子にせまる。
「「「「「「「「「さぁ、早く婚約破棄宣言を。」」」」」」」」」
「出来るかーーーーー。」
思いっきりマリアを床に突き飛ばせば、顔面からマリアは床にべしょっと潰れた。
ハロード王太子はレティーヌに向かって、土下座する。
「すまなかった。レティーヌ。気の迷いだ。婚約破棄なんてしない。どうか、結婚しておくれ。」
レティーヌはハンカチを手に涙を流して、
「せっかく、自由になれると思っておりましたのに。わたくしは、ハロード王太子殿下の態度に傷ついておりますのよ。しばらく、神殿に籠って暮らしますわ。貴方が100日間、毎日、花束を持って通ってきて下さるならば、結婚を考えて差し上げます。」
「解った。通うから…」
卒業パーティ後、とある個室にて、
レティーヌは、男性陣に感謝を述べる。
「皆様、ご協力有難うございます。」
騎士団長子息チャールズが、頷いて、
「いえいえ、レティーヌ様にはお世話になりました。剣技の練習で怪我をした私や連中をその聖なる力で癒して下さいました。」
宰相子息クリスも、
「勉強も教えて下さり、有難うございました。ですから、婚約破棄されないでほっとしております。」
アレクト皇太子も、
「私としてはレティーヌと結婚したかったんだがな。レティーヌがハロード王太子がいいというのだから、仕方がない。」
精霊王がアレクト皇太子の肩をポンと叩いて、
「あのおバカ王太子とセットで無いと、レティーヌの本来の力が半減してしまう。」
魔王も頷き、
「仕方がない。我としても我が魔国にこそ、レティーヌが必要だったのだが。」
レティーヌはにこやかに、
「勿論、精霊王様と魔王様には、お礼に伺わせて頂きます。ハロード様と共に。精霊の森に力を、病める魔族に癒しを。」
レティーヌにとって、ハロード王太子は必要な伴侶。番なのだ。
偉大なる力…人々の病を取り除き、作物が良く育つように国の為に注ぐその力。
その力を振るうのに、ハロード王太子は必要不可欠な番なのである。
だから、どうしても婚約破棄されたくなかった。
皆に協力をしてもらい、マリアを陥れたのだ。勿論、マリアの教科書を破ったり、階段から突き落としたりはしていない。
男関係は…思いっきり捏造してやった。金をやって、嘘の証言をさせた。
国王陛下も王妃も全て了解を得た上で、協力して貰った。
彼らもレティーヌの力を欲しがっている。そして、レティーヌの優秀さを認めている。
そして、クズのような男爵令嬢等に未来の王妃を任せられないのだ。
全て上手く行った。
これでハロード王太子と結婚出来るだろう。
一方マリアはと言うと、一人ぽつんと卒業パーティ会場に取り残され、顔面を打って鼻から血を出しながら、
「なんでぇなんでぇ。もう少しで王妃様になれたのにぃ。どーしてぇ。」
人相の悪い男達がマリアを取り囲む。
マリアはその男達を見まわして、
「貴方達だあれ?」
「アルベルク公爵家を敵に回して無事に済むとでも?ホットリス男爵家には話がついている。簀巻きにして連れて行け。」
「ちょっとぉ、どーゆう事っ???」
マリアは簀巻きにされて、男達に運ばれていった。
「レティーヌ様。言われた通りに致しました。マリアは娼館に売り払い、一生出てこれないでしょう。」
執事の報告にレティーヌは微笑む。
「ご苦労様。」
そして、窓の外を見つめながら呟いだ。
「さぁ。ハロード様。わたくしへの愛を見せて下さいませ。100日間、神殿へ通って、毎日愛を囁いて頂戴。楽しみにしておりますわ。」
勿論、番としてハロード王太子殿下は必要だけれども、それだけじゃ女として寂しい…
愛しているからこそ…繋ぎとめた。
愛しているからこそ、皆の協力を求めて…
あんなどうしようもない男でも、愛しているから…
レティーヌは、花瓶に生けられていた、ピンクのバラを一本を抜き取ると、
その花をぐしゃっと左手で握りつぶした。
後に、レティーヌはハロードと婚姻し、ハロードが国王になった時に王妃になった。
この国はレティーヌのお陰で、病も少なく、作物も良く育ち、国は発展したと言う。
ハロード国王はレティーヌ王妃をとても大切にし、二人の仲は良く沢山の子にも恵まれたと書物に記されている。