真夏の夜話 壱
季節物です。
怖くないと思います。
夏の夜は寝苦しいものです。
窓を開け、電気を消しベッドに入る。
風がそよそよながれ、睡魔が誘ってきます。
目を閉じ、何を考えますか?友人ですか?恋人ですか?
そんなあなたが眠りに付いた後のお話です。
窓から入ってくるのは風だけとは限りません。
恭子はエアコンが苦手だ。女性というのは冷え性が多く
職場や公共施設で丸一日冷やされれば肩もこる。
恭子は高校生だが、バイトの本屋は季節を感じさせないほど
空調を利かす。お陰でバイトがあった日はだるさが増した。
家に帰宅したのは22時を回っていた。
もっと早く帰ってこれたのだがバイト仲間とのたわいもない
話が長引いたのである。
玄関のカギをあけ、すぐさま二階の自室へと向かう。
母親の叱咤が聞こえたがかまわず部屋のドアを閉めた。
ベッドに横になり、携帯電話で友人の彩菜と話す。
内容はお互いの恋の話だ。
学校ですれ違った事やもうすぐ席替えだと
告白する勇気のない二人にはそれで十分だった。
気がつくと既に午前0時を少し回っていた。
明日は休みなので朝を気にする事はなかったが
バイトの疲れで眠気が襲ってきていた。
「彩菜さぁ悪いんだけど今日は寝るね」
恭子は目を擦りながら友人に謝罪をした。
「うん。恭子また月曜ね。小テストだよ数学の」
彩菜は恭子が忘れていた数学の小テストの存在を教えてくれた。
そのまま電話をきり横になる。
恭子の部屋はエアコンを弱めにしていたが
寝るときはエアコンを止め、窓を開けて寝ていた。
泥棒が入ってくる事はない2階である。
網戸だけきっちりしめておけば蚊もはいってはこない。
エアコンを止め、窓を開ける。
近所はもうすでに電気を落としてるいのだろう。
窓に明かりがついている家はすくない。
風は珍しく涼しく、風呂に入ろうと思っていたが
朝にしようとTシャツと短パンに着替え、電気を消し
ベッドに入った。
心地よい風に数学の小テストなどあっという間にどうでもよくなる。
一日冷房にあたって疲れた体は睡眠に恭子を引き込んでいった。
恭子は目をさます。
部屋は暗いが夜に目が慣れている為、部屋は全て見える。
カーテンが揺らめき頬を風がくすぐる。
それは少し冷たく、思わずタオルケットを引き上げた。
時間を目ざましで確認する。
時刻は2時15分を表示していた。
2時間ぐらい寝ていたことになる。恭子はそのわりに
目がハッキリ覚めていることに不思議な気持ちになった。
「もう一度寝ようか……」
目が覚めていても目と閉じれば寝れるだろう言い聞かせ
布団を首まで掛け直してもう一度寝る。
なぜか眠気はこず、かわりに不安が大きくなってきた。
何度か寝返りをうつがどんどん不安だけが増大し
思わず起き上がる。
部屋を見渡すが誰もいない。いるわけがない。
安心するはずなのに不安は消えない。
「なんなのよ……もう……」
思わず愚痴がでる。何かに八つ当たりしたいぐらい
不安なのだ。携帯電話を手に取るが時間が時間である。
誰かにかけるのは悪いとおもった。
恭子はもう一度横になり、布団を頭までかぶった。
被ることによって不安を消そうとしたのである。
先ほど部屋には誰もいなかった。
だが今は誰かがいるような気がしてならない。
急いで起き上がり再度部屋を見渡す。
誰もいない。気配も消えていた。
少し安心して布団に潜る。それで不安はまだ十分あったので
頭まで被って寝ることにした。
「馬鹿らしい……誰もいるわけがないのに……」
恭子は自分に言い聞かせながら目を閉じようとした。
「よく…………わか……ったね……」
恭子は耳を疑った。どこからか声が聞こえたのである。
それは低い声で途切れ途切れだったが確かに聞こえた。
静かに布団を降ろし部屋を見渡す。
目線ぎりぎりまで下げ、なにもそこにいないように願いながら
見渡した。誰もいなかったのである。
恭子の不安と恐怖は消えない。
寝ないといけない。絶対今すぐ寝ないといけない。
恭子の本能がそう叫んでいるようだった。
恭子はもう一度布団を被りぎゅっと目をとじる。
「大丈夫…………大丈……絶対大丈夫……」
そう唱えながら何があっても目を開けないつもりでいた。
タオルケットと恭子の体の間。恭子の腹部の辺りだろうか
そこから風がゆっくり吹き付ける。
窓を開けているのだ。風を感じてもおかしくはない。
だが、その風はすこし暖かく湿気があった。
仰向けの恭子は顎を引き下に視線を向ける。
恭子がそれを認識するかしないかという瞬間。
「よ……く…………わかった……ね」
青白い男の顔が恭子を見つめていた。
お疲れ様でした。
作者は窓を開けて寝ています。
これは私が体験したお話です。
8月5日 本文修正しました。少しだけ