蟲女王
十王、それは死界を支配する王達のことである。彼等は王になってから一度も敗北したことのない怪物である。
そんな存在が今俺達の前に居る。どうやら俺の考えは甘かったようだ。
『勝てる気がしねぇ』
アルファの言う通りだ。さっきまで戦っていたギガノト・ドラゴンレックスが赤子のように思えるほどだ。全く勝てる気がしない。逃げるか?いや逃げるしかない。戦ったら絶対に死ぬ。
「妾から逃げれると思うな。貴様らは妾の庭を荒らし過ぎだ」
逃がしてくれないようだ。戦うしかないようだ。
「ふむ・・・面白そうな奴らだ。少し遊んでやろう。さあ来い痴れ者達よ!」
「キシャァァァ!」
最初に動いたのはフィーニスだった。大口を開きバグイーンに食らいつこうとした。
「斬糸」
「キギャ!?」
『フィーニス!?』
食らいつこうとしたフィーニスが一瞬で細切れになった。
「まずは1匹」
冷たい瞳が俺達を睨みつける。
『この女郎がぁぁぁ!封剣解放!獄炎纏い!』
おい馬鹿!冷静になれ!1人で突っ込むな!
俺はギューリーを掴んで止めようとしたが、止めることは出来ずにギューリーが激昂して走り出す。
『ウルフネイルゥゥ!』
ガキィィィ!
剣がバグイーンと激突して砂埃が舞う。だがそこに傷ついたバグイーンは居なかった。
「良い剣だ。だが使用者の方は・・・まあまあだな」
ギューリーの全力の一振を指先で掴むバグイーンの姿があった。その直後だった。剣を握ってない方の腕が弾き飛んだ。
「ウグゥ!?」
ギューリーが激痛のあまりその場に倒れる。
「これで2匹目」
バグイーンの華奢な腕がギューリーの首に触れようとしたその時だった。
『死に晒せやぁあぁぁ!』
上空からアルファが全力で拳を振り下ろした。闘争心を発動させている全力の一撃だ。だがバグイーンは避けもせず拳を、そのまま受けた。凄まじい風圧と衝撃波が放たれる。
「少し痛いではないか。やるな痴れ者よ」
そこには澄ました顔で立っているバグイーンが、居た。殴られた部分が微かに赤くなっている。
ブラインド!ダークボム!
『ウォーターブレイク!』
『ドラゴンソウル!』
「おっと?」
視覚を塞いで、回避を困難にするブラインド。追加で威力の高いダークボムを放つ。そして追い討ちでギューリーとアルファの魔法が、放たれる。
だがバグイーンはまるで見えているかのように魔法を、躱す。
「視界を塞いでの攻撃。良い判断だ」
「ギュルァァァ!」
「おお、怖い怖い」
俺は暗い閃光を拳に纏わして殴る。バグイーンはそれを片手で受け止めて涼しい顔をしている。
「糸弾」
「ウギャ!?」
首に向かって糸の塊が飛んでくる。俺は体を無理矢理動かして何とか避けようとしたが、被弾してしまい翼に特大の穴が空く。
「ん?首を狙ったのだが避けられたか」
被害を最小限に抑えることができた。だがこのまま行くとこちら側が非常に不利だ。
『全員で一気に叩き込むぞ!逃げる時間ぐらい稼げるかもしれねぇ!』
ギューリーの言う通りだ。もしかしたら逃げる時間くらいは稼げるかもしれない。やってみる価値はある。
俺は暗い閃光を纏わす。ギューリーは封剣に力を込める。アルファは始祖の常闇を放つために魔力を練り上げる。各々が全力で、最高の一撃を放とうとする。
「さあ!来い!全力の一撃を妾にぶつけよ!」
バグイーンは俺達が全力で攻撃するのを、察したのか口角を上げて邪悪に笑う。
「ガァァ!」
「ウラハァァ!」
「グルァァァ!」
各々の最高の一撃を放つ。落雷が落ちたかのような轟音が鳴り響く。轟音に続いて封剣が、バグイーンの皮膚を切り裂く。そして影から黒い手が伸びてバグイーンを、押し潰そうと絡みつく。
『滅光!』
アルファの声とともに影が光りバグイーンが地面に押さえつけられる。バグイーンの動きが、少し鈍ったがそれだけだ。数秒後には、黒い手の拘束から易々と抜け出そうとした。その時だった。
『滅爆!』
影が輝いて大爆発を引き起こした。
『どうだ!流石に効いただろう!』
土煙が晴れてバグイーンの姿が現れる。所々傷ついているが、致命傷ではない。
「フフフ・・・アハハ!なかなかやるな!ここまで妾を楽しませてくれた者は、久しぶりだ!妾も貴様らに敬意を表して妾の全力の一撃を喰らわせてやろう!」
バグイーンが狂気的に笑いながら言う。十王の全力の一撃、避けることはできるか?いや防ぐか?どうする?どうやったら生き残れる?
どうするか考えていたその時だった。
「カッ!?」
「アッ!?」
アルファとギューリーが、口から血を噴き出してその場に倒れた。何が起きたか分からなかった。認識する前に攻撃されたってことだけしか理解できなかった。
直ぐに反撃しようとしたが、力が入らず俺はその場に膝をついた。俺の口から真っ赤な血が噴き出る。急いで再生を使っているが、全く効果がない。何故だ?どうしてだ?分からない。分からない!分からない。何故だ!何故だ。何故こうなった!
そんな考えが頭の中をグルグルと回る。心臓の音が頭に響く。
「ほう?貴様は耐えたか。だが終わりだ」
バグイーンの柔らかい手が俺の首に触れる。視界が揺れる。その柔らかい手に吸い込まれそうだ。
ドスっと鈍い音と共に俺の心臓が貫かれた。俺の視界は真っ暗に染まっていった。
私事ですが、明日受験なんで頑張ってきます。




