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終焉の龍の卵  作者: レッドヴォルト
死界 蟲蔓延る病の谷編
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黒竜からの敗走

その日は一段といつもより日差しが強かった。ギラギラとした日が木影を縫って私達を照らす。


「騎士様まだ歩くのかい?」


「仕方ないだろう。前回の獲物を仕留めきれなかったのだから」


私達は獲物を探して歩く。Bランクの魔物を仕留めればBランクに昇格できる。Bランクに昇格できれば食うのには困らない。それに現大陸に戻ればそれなりの地位を手に入れることができる。


「気配察知に何かかかった。2匹だ。それなりに強い」


槍使いのオドゥが言う。気配察知を持ってない私でも分かる。


「行くぞ。我らなら大丈夫だ」


私達は騎士様の後ろに着いていく。遠目でも分かる黒い鱗の竜、そして隣にはドラゴンニュートが見える。それにしてもドラゴンニュートが持っているあの剣かなりの業物だろう。


「静かに!そろそろ接敵する距離だ」


「本当にBランクの魔物なんですよね?さっさと仕留めて昇格しますよ」


「ああ、間違いない。黒竜とドラゴンニュートだ。どっちもBランクだ。これをギルドに持っていったら絶対に昇格できる。それに素材を売ればしばらくは遊んで暮らせるぞ」


あれは本当に・・・黒竜か?四対の翼を持つ黒竜なんて見たことも聞いたこともない。特殊個体なのかもしれない。もしそうだったら下手したらAランクに昇格できるかもしれない。


「私が弓で黒竜に先制攻撃します。騎士様はドラゴンニュートの方をよろしくお願いします」


「任せろ」


私は黒竜の方に弓を引いた。その時だった。黒竜と目が合った。


「ガァァァァ!」


「ウラハァァ!」


「なっ!?気づかれた!作戦通りに動け!」


気づかれた!?しかも思ってたとよりデカい!


「来い!ドラゴンニュート!こっちだ!黒竜は頼んだぞ!」


「はい!」


騎士様がドラゴンニュートを引きつける。


「アローエンチャント!ホーリー!」


「スピアエンチャント!ホーリー!」


私達は光属性を各々の武器に付与する。あれが黒竜なら光属性は弱点だ。戦闘を有利に進めることができるだろう。


「クイックショット!」


「グォ!」


光の矢が高速で飛んで黒竜の鱗を穿った。やはり弱点属性のようだ。かなり効いている。


「はぁぁ!」


オドゥがその隙に接近してくる。いつでも攻撃を回避できるように踏み込みが浅い。


「右に飛んで!スタンアロー!」


「ギャ!?」


オドゥが私の声と同時に横に飛ぶ。それと同時に黒竜の腕に矢が突き刺さり怯む。


「はぁ!」


黒竜が緩んだ瞬間、オドゥが攻撃を仕掛ける。だが黒竜はオドゥの攻撃に怯まず私に向かって来る。オドゥを押し退けて私の華奢な体を噛み砕こうと凶悪な顎門を開いて向かって来る。


「クイックステップ!カウンターアロー!」


私はギリギリまで引きつけて回避する。そしてカウンターをガラ空きの横顔に矢を打ち込む。


「喰らえやぁぁ!」


「ガァァ!?」


オドゥが黒竜の背中に乗り槍を突き刺す。黒竜があまりの痛みに咆哮する。耳がどうにかなりそうだ。


「のわぁ!?」


だがオドゥは突然どこからか飛んできた魔法に体勢を崩して地面に転がり落ちた。


「ガァァ!」


「あがぁ!?」


地面に落ちたオドゥを黒竜が押さえつける。メキメキと鎧が軋む音が聞こえる。


「ギャァァ!?」


「ちぃ!ペインアロー!さっさと起き上がって!」


「助かった!」


痛みを増幅させるペインアローを黒竜の腕に撃ち込む。流石の黒竜もあまりの激痛でオドゥから手を放した。


「高速突き!」


オドゥが黒竜に攻撃したその時だった。虚空から大人の拳ほどがある岩石が飛んできてオドゥの骨を砕いた。


「あっ!?」


骨が折れた音がした。よく見ると関節が逆に曲がっている。あれじゃ攻撃を防げない。


「ガァァ!」


「ぎゃぁぁ!?」


痛みで怯んだオドゥに黒竜は容赦なく丸太ほどの太さの尻尾を振るった。成人男性であるオドゥが強風に吹かれた葉っぱのように岩に飛んでいき激突した。


ゴシャリと肉が潰れた音と鮮血が辺りに舞う。


「ひぃ!?」


目の前でパーティーメンバーが簡単に殺された。前衛がいなくなった後衛に残された未来はない。このまま殺される。そう思うと脚に力が入らない。逃げたい。逃げなきゃ。逃げないと死ぬ。


「い、いやぁぁぁ!」


「た、退却!逃げるぞ!」


腰が抜けた私を騎士様が担いで走り出す。だが逃げ切れるわけない。人なんかより竜の方が圧倒的に速いのだ。だが私の予想と反して黒竜は追いかけてこなかった。こっちをジッと見ているだけだった。




「もう・・・大丈夫です。もう歩けます」


「・・・そうか。無理はするな」


私達は敗走した。下手したら死んでいたかもしれない。軽い気持ちで自分達より格上の敵に挑み大切な仲間を1人失う形で自分達の無力さを教えられた。


「オドゥ殿のことは・・・残念であったな。だが我々は冒険者だ。彼も死ぬ覚悟はできていたはずだ。切り替えていくぞ」


「・・・分かっています。分かっているんです。冒険者をしていればいつか死ぬことは分かっているんです。でも・・・そんな簡単に割り切ることはできません」


「せやな。お嬢ちゃんの言う通りやわ。そんな簡単に割り切れんよなぁ?その気持ち分かるでー」


「何者だ!」


さっきまで誰も居なかったところに1人の男が立っていた。糸目の長身で纏められた目立つ黒髪、そして腰には見たことない形の剣を差している。


「おーこわ!そんないきなり剣向けんくてもええやんかぁ!」


男はふざけたように言う。だが言葉とは裏腹に隙がない。死界に居るってだけでもそれなりの実力があるのは確かだ。だがそれを加味しても目の前の男はかなりの実力者だと言うことが分かる。


「それにしても2人とも辛気臭い顔しとおなぁ。ほんで申し訳ないんやが食いもん持ってへんか?2日前から何も食べてへんねん!礼ならするからな?な?」


「・・・持っていけ」


騎士様が無造作に食料の入った袋を投げ渡す。


「おー!ありがとう!それじゃ早速頂くでぇ!」


男は袋から食料を取り出すとガツガツと食べ始めた。


「いやー助かったわぁ!飯貰った礼として姉ちゃん達の仇討ち代わりにやってあげるわ!」


「・・・別に構わん。腹が満ちたならもうどこかに行け」


「姉ちゃん達の仇って四対の翼を持つ黒竜よな?」


「!?なんで知ってるの!?」


この男には一言も黒竜のことは話していない。なのに何故知っているのか私は不気味でしかたなかった。


「ギルドからの特命依頼であの黒竜には目をつけててん。それにあれはワイの獲物や。姉ちゃん達の仇討ちはオマケや」


「・・・そうか」


「まあワイに任せといてくれや。この絶剣のオオムラ・コウセイに任せとけ」



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