束の間の休息
『釣りがしてぇ』
ギューリーが急に釣りがしたいとか言いだした。
『だってよ最近魚食ってねぇし・・・久しぶりに食いてえんだよ』
あー少し分かるかもしれん。俺も久しぶりに魚食いたくなってきた。でもよここら辺に川なんてあるのか?
『そう言うと思って見つけてきた』
やるじゃねぇか!どこにあるんだ?
『この前ゴキブリの群れから逃げた時に飛び越えた崖があるだろ?あそこの底に川が流れてるんだ。行こうぜ』
俺達はギューリーに連れられて崖底に向かった。
移動して崖底まで来た。崖底にはガラスのように透き通った川が流れていた。釣りをするって言っても道具がねぇからな。
『そう思って道具は用意しといたぞ!』
ギューリーから釣竿が投げられる。お前用意良いな。でも餌はどうするんだ?
『これを使うぞ!』
生臭い泥団子を投げ渡される。めちゃくちゃ臭い。鼻が曲がりそうだ。これ何なんだ?
『この前俺達を追いかけてきたゴキブリ居ただろう?』
ああ、仲間に押されて崖底に落ちてたやつも居たな。・・・おいまさか。
『そのまさかだ。さっき崖から落ちた奴の死体を見つけたからそれを加工して作った』
「ガァァ!?」
俺は持っていた生臭いゴキブリ団子を地面に投げつける。
『ああぁ!勿体ねぇ!』
馬鹿野郎!そんなもん俺に投げつけるじゃねぇ!もうちょっとマシな餌用意できただろ!
『魚は臭いもんに寄ってくるし・・・な?我慢してそれ使おうぜ』
・・・仕方ねぇな。
俺はギューリーが用意した生肉団子を釣り針に付ける。そして川にポチャンと投げ込む。ギューリーもニコニコしながら釣りを始める。
鳥が鳴く声が時折聞こえる。そして遠くから魔物の咆哮と思わしき声も聞こえる。だが本当に静かだ。のほほんとした空気が流れる。今思い返せば俺達はどこに行っても戦っていた。こんなのんびりしてるのは初めてなんじゃないか?
『思い出すな・・・昔親父と一緒に釣りをしたなぁ』
ギューリーが遠い昔のことを思い出すように言う。
しばらく静寂が場を支配する。一向に魚が釣れる気配はないが楽しい。この何もしないボーっとしている時間が良い。
いやー全く釣れねぇなぁ。
『気配察知には引っかかるんだがな・・・まあこうやってダラダラできるのも久しぶりだ』
俺達は釣り糸を水面につけながら待つ。数十分経ったころだろうか。俺の釣竿がしなる。
俺は力任せに竿を振り上げる。釣り針には鱗が白い魚が掛かっていた。その後ギューリーも直ぐに釣れた。ギューリーが釣ったのはカレイみたいに平べったい魚だった。
『これだけじゃ全然足りねぇよなぁ』
だな。根気強く釣るか。
それから数時間が経った。俺が8匹、ギューリーも8匹、フィーニスが30匹。うん?フィーニスは釣りをしてなかっただろって?ああ・・・あのバカ、川に飛び込んで魚咥えて持ってきたんだよ。
俺達は焚き火を起こして魚を焼く。もちろん串焼きだ。塩もあったら最高なんだがな。
俺は魚に齧りつく。ホロホロと崩れる。臭みもないしかなり美味い。死界だからって化け物みたいな魚が釣れると思っていたが至って普通の魚だ。
『やっぱ魚はうめぇな!』
そうだな。欲を言えば刺身も食いてぇ。あー醤油が欲しい。味噌も欲しい。あと米も欲しい。色々落ち着いたら作ってみるか。
『偶には使命なんて忘れてゆっくりするのも良いな』
お前は考えるだけで疲れないだろ。体動かすのは俺なんだから。
『考えるのも結構疲れるんだよ。どこぞの誰かさん達が脳筋で突っ込むことしかしないからな』
・・・言い返せねぇ。
『いつも本当すんません』
俺達はその後魚をつまみかながら談笑して過ごした。するとギューリーが突然ある提案をしてきた。
『オメガお前と全力で戦ってみたい』
急に何を言い出したかと思えば全力で戦いたいだと。あのなここは死界ってこと忘れてるんじゃないのか?たとえ全力で戦ったとしてその後はどうするんだ?どちらも怪我した状態で死界の魔物と戦えるのか?
俺は少し強めの口調で言う。
『怪我の心配はいらねぇ。俺の操血術で模擬戦に使える術があるんだよ』
模擬戦に使える術?
『その名は血の決闘、簡単に言ったらリスク無しで全力で戦えるってことよ』
本当なんだろうな?まあリスク無しならやってみるか。俺もギューリーとは一度戦ってみたかったしな。
『それじゃやるとするか!操血術!血の決闘!終焉竜オメガに誉れ高い決闘を申し込む!』
ギューリーの声と同時に地面に赤黒い模様が広がる。視界が一瞬暗転して目を開けるとさっきまで川辺に居たと言うのに広々とした闘技場に居た。
おいおい!どう言うことだ!?何で俺は闘技場に!?
『狼狽えるな!ここは精神世界だ!』
精神世界だと!?
『肉体は無事だ。それに現実世界じゃ一秒も経ってないぞ』
ギューリーがそう言う。なるほど精神世界なら死ぬ心配もないし全力で戦えるな。
『さあやろうかオメガ!行くぞ!』
良いぜ!やろうか!




