獣人
アイスイールを半分ほど食べた頃だった。少しずつ吹雪いて来たので吹雪を凌げるところを、探しに行くことにした。
獲物を引き摺って数分後、俺達は洞穴を発見する事が出来た。浅いが吹雪は凌そうだ。此処で吹雪が止むまで、休むとするか。
ギューリーとフィーニスを奥にして俺が、その前に蜷を巻く様にして眠る。流石にこの吹雪だ。もう他の魔物が来るなんてことはないだろう。
眠っているとカチンカチンと何かを叩く音が聞こえてきた。疲れていたのかぐっすりと眠っていた様だ。ギューリーが起きて剣の手入れでもしてるのかと思い俺はゆっくりと目を開ける。
「グォォ!?」
『どうした!?』
「ひっ!?岩が動いた!?」
「岩じゃない!?ドラゴンだぁぁ!?」
そこにはギューリーは居らず代わりに犬耳が生えた子供2人組が居た。バッチリと目が合った。2人とも化け物を見たかのような顔をしている。
人が居たことに驚き天井に頭をぶつけてしまった。2人とも顎が外れるかと思うほど口を開き今にも絶叫しそうだ。俺だったら発狂してる。
あたふたと洞穴から2人組が逃げようとしたその時だった。入り口の方から気配を感じる。洞穴に何者かが入って来たのだ。侵入者は俺達の前にゆっくりと姿を現した。
「ブラガラァ!」
そこには傷だらけの白黒の虎が咆哮を上げてこっちを睨みつけていた。あの2人組からしたら前門の虎後門の竜だ。退路を断たれて絶望した顔をしている。
「ブラガラァァァ!」
「ウラァ!」
「ひぃぃ!!」
だが虎は子供に見向きもせずに俺達に襲い掛かって来た。
虎の爪を起きたギューリーが、剣で防ぎ反撃する。怯んだ隙に俺が横顔をぶん殴る。だが奴も獣だ。殴られた反動をバネにして腕に噛みついてきた。俺は噛みついてきた奴の頭を壁に叩きつける。叩きつける度にパラパラと天井から砂利が落ちてくる。それ程強く叩きつけているのに力を弱めることなく食らいついてくる。
「ガァァ!」
「ブァッ!?」
「ひゃぁっ!?」
俺は奴の耳元で咆哮を放つ。近距離での咆哮が効いたのか奴は俺の腕から牙を抜いた。そこをギューリーが胸に剣を突き刺しフィーニスが噛みつく。
「ギャラァ!」
飛びついてくるかと思ったが、奴は尻尾を巻いて逃げ出した。俺とギューリーはポカンと口を開けてただ突っ立っていた。今まで戦って来た魔物は死ぬまで戦っていた。逃走するなんて初めてだ。まあ命あっての物種だ。最後に生きていた奴が勝者だ。
俺の足元には泡を吹いて倒れて居る子供が居た。流石の俺でも人を食うのには忌避感がある。このまま放置していたら他の魔物に襲われてしまうだろう。死なれたら寝覚めも悪い。仕方ない起きるまで待っといてやろう。
『プニプニだぁ!』
「うぅ・・・」
コラ!鋭い爪で子供の頬をプニプニするんじゃねぇ!傷つくだろうが!
『ちぇ分かったよ』
俺は体が冷えない様に火を付ける。ついでにアイスイールを焼いて食べる。味のない蒲焼きだがホロホロと崩れる白身が美味い。これで白米とタレがあれば完璧だろう。なんやかんや落ち着いたら米の栽培でもしてみたいな。
あれから何時間経っただろうか。轟々と吹雪いた吹雪は、見る影もなく晴天が広がっていた。日光が反射して眩しい。丸一晩あの洞穴で過ごしていた様だ。子供達はまだ起きていない。・・・死んでないよな?
俺が顔を近づけてるとピクピクと動き出した。1人が何度か寝返りを打つとゆっくりと目を開き始めた。
「寝てた・・・ひぃっ!?」
また化け物を見たかの様な顔をしている。まあ俺は化け物なんだけど。そんな反応されたら傷ついちゃうな。
「エフィモア!起きて!ねぇ!起きて!」
初めに起きた子がエフィモアと呼ばれる子を揺さぶって起こそうとしている。揺さぶられていた子が目を擦りながら怠そうに起きる。
「アルセン・・・そんな大声出さなくても・・・ひぃ!!」
1人目と同じ反応だ。2人ともガクガクと震えて怯えている。尻尾もタランと下げている。死を覚悟した顔をしていてる。まずは敵対心を解さないと。人型に近いギューリーにお願いした方が良いか?竜の俺よりかは怖くないだろう。ギューリーお願いできるか?
『任せろ!』
ギューリーがのそのそとゆっくりと近づいていく。一歩一歩近づいて行く度に彼等の呼吸が乱れるのが分かる。
『ウォータースフィア。取り敢えず水でも飲んで落ち着いてくれ』
ギューリーがウォータースフィアで水を生成した。ほぼ丸一日眠っていたんだ。喉も渇いてるし腹も減っているだろう。だが彼等は警戒して一向に手をつけようとしない。
『安心してくれ。毒なんて入ってない・・・ほらな?』
ギューリーがウォータースフィアを一口飲んで毒は入っていないとアピールする。
『そうか腹が減ってんだな。オメガ!アイスイールを焼いてくれ!』
おうよ!直ぐに焼いてやるからな。少し待ってろよ!
俺は残ってたアイスイールを焼き始める。香ばしい匂いが洞穴中に充満する。子供達も鼻をヒクヒクさせながら口から涎が溢れている。キュルルと可愛げのある腹の音が鳴った。
出来たぞ。熱いから火傷しないようにゆっくりと食べるんだぞ。
俺は食べ易い様に小さく切って渡す。2人が顔を見合わせて覚悟を決めたのかアイスイールに齧り付いた。一口食べ始めるとガツガツと食べ始めた。急いで食べなくて大丈夫だぞ。誰も取らないからな。ゆっくり食べな。おかわりもあるぞ。
あの後2回程アイスイールをおかわりした。腹が満たされたからなのか警戒心は解けてリラックスしている。
「助けていただいてありがとうございました!」
「ご飯ありがとうございました!この御恩は忘れません!」
うんうん子供は元気なのが一番だ。それに俺が見捨てたせいで死んだら寝覚が悪いしな。
『元気になって良かった。それで君達は何処から来たんだい?』
ギューリーが優しく声を掛ける。俺も気になっていたことだ。何故子供だけでこの雪山に居るのか。
「えっと・・・私達は魔物に村を壊滅させられてみんなと違う村へ逃げる途中だったんです」
「でも吹雪のせいでみんなと逸れて・・・その時にこの洞穴を見つけました」
それは災難だったな。君達2人で村には向かえるのか?
「んっ・・・」
「それは・・・」
2人の顔色が曇る。やはり子供だけではこの雪山で移動するのは厳しいだろう。直ぐに魔物に襲われて死んでしまうだろう。
仕方ないここは一肌脱ぐとしますか。俺が村まで送ってやろう。その代わりに村の人達に俺達は安全だと伝えてくれないか?
「良いんですか!?ありがとうございます!私が村のみんなに責任をもって伝えさせていただきます!」
「ドラゴンさんは良いドラゴンだって村のみんなに伝える!」
2人の顔色が明るくなった。子供に暗い顔はやはり似合わないな。笑顔が一番だ。この子達は責任持って無事に俺が村まで送り届ける。
さて吹雪も止んでいることだし今のうちに出発するとしよう。
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