表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は破滅回避のため幼女になります!  作者: 奏白いずも


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/33

【前編】電子書籍化記念〜登校二日目の悪役令嬢は主人公と昼休みを過ごす〜

電子書籍が本日配信開始となります!

応援いただきました皆様に感謝を込めて、少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

イリーナが編入後、登校二日目のお話です。時間軸的には30.5話の内容となります。

 昼休みを告げる鐘の音が広い学園の敷地に響く。それと同時に慌ただしい足音が各所で動き出していた。


「いた!?」


「だめ、こっちにはいない」

 

「まだ昼休みが始まって一分も経っていないのに、イリーナ様ったらどこへ行ってしまったのかしら」


 編入後、登校二日目。一番後ろの席に座っていたイリーナは、鐘が鳴り終わるより早く教室を飛び出したおかげで追跡を免れていた。


(あ、危なかった……)


 イリーナは階段の陰に身を潜め、自分を捜す声に耳を傾け様子を窺う。こうなることを予測して授業が終わるなり教室を飛び出したのだ。今も教室ではイリーナを捜す声が絶えないだろう。

 幼い頃から引きこもっていた侯爵令嬢が外に出た。異例の編入が認められる優秀さは既に学園中に広まっているが、イリーナが注目されているのはそれだけではない。


「教室にも食堂にもいなかったわ」


「昨日はアレン様に独占されてしまったから、今日こそはお話したかったのに!」


「ええ。主にアレン様とのことをお伺いしないと!」


 ぎらぎらと目を光らせる彼女たちを見ながらイリーナは思う。


(絶対に逃げ切ってやりますけど!?)


 イリーナは切実に願っていた。昼休みは人気のない静かな場所で過ごしたいと。

 さすがに途中何人かとすれ違い、一緒に昼休みを過ごさないかと誘われることもあったが、照れながら先約があると伝えれば勝手にアレンとの約束だと誤解してくれるので助かった。このあたりは幼女化時代に培った演技力によるものだ。


(昨日は登校からアレン様が一緒だったせいでアレン様との仲を質問攻め。昼休みもずっと傍にいるし、食堂だと落ち着いてご飯も食べられないんだから!)


 ただでさえ侯爵令嬢であるイリーナと仲良くなりたい人は多い。登校初日からたくさんの人に声をかけられ喉が枯れそうだ。久しぶりの社交に疲弊する。


(昨日は最終的にアレン様が私を回収してくれたけど、おかげで今日は朝からもっと噂になってるし!)


 アレンと一緒にいることはイリーナにとって当たり前だが、場所が問題だ。アレンが頻繁に侯爵邸を訪れていることは知られていても、これまではオニキスを訪ねてのことだと思われていた。それが女性と寄り添う姿を見せつけられてはこれまでアレンに想いを寄せていた者たちは大混乱である。みな婚約者問題が気になって仕方がないのだ。

 侯爵令嬢相手では勝ち目がないと諦める者、諦めるのはまだ早いとイリーナに探りを入れようとする者も多いから大変だ。責任をもってアレンになんとかしてほしい。


(逃げるが勝ちよ!)


 人目を避けるように外に出て校舎裏を目指すイリーナの手には持ち手のついたかごがある。昨日は食堂でアレンと昼休みを過ごしたが、今日は最初から逃亡するつもりで手作り弁当を用意していた。


 ――イリーナ、気をつけて。その先、イリーナを探しているよ。


「ありがとう」


 立ち止まって追っ手をやり過ごしたイリーナは、耳に届いた精霊の声にお礼を言う。

 彼らの声は愛し子であるイリーナにしか聞こえない。人間たちに姿を見られることもなく、案内役として彼ら以上に頼もしい存在はないだろう。


 ――イリーナ、こっち。落ち着ける場所、こっちだよ。


 ――でもあの子がいる。イリーナに意地悪した人間、一人。


 精霊たちが意地悪をしたと警戒する相手に思い当たるのは一人だけだ。彼らには大丈夫と答え先へ進む。

 校舎裏は木に囲まれているが、一角にはベンチが置かれていて、見慣れた後ろ姿が目に入る。背後から近付くイリーナがわざと足音を立てると、それに気付いたベージュの髪が大袈裟に揺れた。


「イリーナ!?」


 驚きに顔を染めたライラは思わず立ち上がる。


「お邪魔します」


「なっ、こんなところで何してるのよ!?」


 こんなところと指摘されるだけあって周囲に他の生徒はいない。一つきりのベンチは少し寂しいが、落ち着いて食事ができる場所に行きたいと願うイリーナを導いたのは精霊たちだ。


「貴女と一緒ですよ」


 イリーナは手にしていたかごを掲げる。ライラの手にもシンプルなロールパンが握られているのが見えた。


「侯爵令嬢なんだから、食堂で食べればいいじゃない」


「食堂は落ち着いて食べられないんですよ。ほら、私は静かにしていますから、気にしないで下さい。隣、失礼します」


「ちょっと!」


「ベンチは一つしかないので」


 イリーナは不満そうなライラを無視して端に腰を下ろす。そのまま無言で食事の支度を始め、静かにすることを主張すれば見逃してくれたようだ。反対側のできるだけ遠くに座ったライラもパンをかじり始めた。しかしそれも少しの間だ。


「~~っ! ちょっと、何よそれ!」


「はい?」


 話しかけてはいけないルールではなかったか。しかもいきなり喧嘩腰である。無視をするとさらに厄介なことになりそうなのでイリーナは大人しく話を聞いた。


「お弁当、どうしてそんなに美味しそうなのよ!」


「そうですか?」


 いい匂いがすると抗議したライラは遠慮なく身を乗り出してきた。


「このサンドイッチ一口サイズで可愛いし、唐揚げの衣はさくさく。卵焼きは綺麗な色でふっくらしてるし、彩りのサラダまでおしゃれ。というか唐揚げって、それ前世の料理!?」


「早起きして作ったので、褒めてもらえるのなら遠慮なく褒められますが」


「イリーナが作ったの!?」


 驚きながらもライラの視線は完全にイリーナの弁当に固定されていた。


「食べますか?」


「な、何よ。私のこと、餌付けするつもり? そうはいかないんだから」


「食べないならいいです」


 イリーナは遠慮なく目の前で唐揚げを食べようとした。食事場所を求めて彷徨い、こちらも空腹なのだ。すると必死の形相で手を止められる。


「嘘です待って、食べたい! 唐揚げ大好きなの、前世の料理が恋しい!」


「どうぞ」


 前世の料理が恋しいと言われては放っておけない。具なしのパンだけで済ませようとしているライラの栄養面も心配なのでイリーナはかごごと差し出してやった。恋しい気持ちはイリーナの想像よりも大きいらしく、ライラは遠慮なく食べ始める。


「うっ、美味しい……! 悪役令嬢の癖に料理できるとかチート!」


「普通に料理しただけですよ。前世では料理学校に通ってたんです」


 不本意そうな顔をしながらもライラはしっかり唐揚げを完食している。イリーナは気持ちのいい食べっぷりを見ながら自身も早起きした成果を堪能した。

 食事を終え、一息ついたところで黙っていたライラが口を開く。


「イリーナって、知識チートで料理改革とかしないの?」


「何を言い出すんですか、いきなり。私も転生者なので言いたいことは理解しますけど」


 反応の薄いイリーナにライラは叫んだ。


「だってこんなに美味しい料理が作れるんだよ! そりゃ、この世界は飯マズってほどじゃないけど、勿体ないと思わないの?」


「そうですか? まあ、家では色々作ってますよ。初めて作った異世界料理はカレーですね」


「何それ羨ましい!」


「私のやりたいことは料理改革ではないので、あくまで個人の趣味の範囲です」


「そう……」


 とても思うところがありますという顔だ。ライラはしばらく迷いを見せたが、やはり言うことにしたらしい。


「私、こんなこと言える立場じゃないのはわかってるけど。料理改革しないなら私に料理を教えてくれない? 私もカレーが食べたいの。唐揚げも! でも料理って苦手で」


「ああ、それは見ていればわかりますけど」


「わかるの!?」


「一緒になった授業では随分と不器用だなと」


「そ、そう。なら話が早いわね」


 ライラは指摘された気まずさを払拭しようと早口だ。


「悔しいけど、イリーナのお弁当、すごく美味しかった。また食べたいし、先生にも食べさせてあげたいの。ほら、勉強で呆れられている分、胃袋掴んで攻略を目指そうかなーって」


「なるほど」


「でもいきなりお弁当の差し入れって重い!? お弁当作るのも難しいよね!? あ、お菓子、お菓子はどう? それなら簡単そうだし私にも」


「お菓子作りを教えることはできません」


 突然険しくなったイリーナの雰囲気に、ライラは納得いかないと不満をぶつける。


「どうしてよ。イリーナならお菓子だって作れそうなのに」


 イリーナは手にしていたフォークを置き遠くを見つめる。その先に広がる緑は美しいが、美味しかった手作り弁当の味が薄れるほど思い出は苦い。


「あれは私が幼女化して少し経った日のことでした」


 あまりにも深刻な様子にライラにも緊張感が伝わったようだ。訊き返す声の色は真剣さを帯びている。


「何があったの?」


「あの頃は私もまだ無邪気にお菓子を作っていました。自分は凄いと、そう思っていた時期が私にも有りました。でも……」

すみません……

長くなったので分割させていただきました。

夜遅くなってしまったので、続きは朝にでも更新させていただきますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ