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悪役令嬢は破滅回避のため幼女になります!  作者: 奏白いずも


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27/33

27、兄は妹のため走った

(私は自分の意思でアレン様を助けに行くの!)


 覚悟を決めたイリーナはもう外に出ることを躊躇わなかった。元の身体に戻ることも考えたが、運動不足の十七歳より幼女の方が体力があるだろう。イリーナは幼女の姿で走った。


(私は私、もらった力だって私の一部なんだから!)


 与えられた力だとしても、それを使いこなしたのはイリーナだ。両親も、兄も、そんなイリーナを褒めてくれた。その期待に応えようとしたのはまぎれもない自分で、褒められて嬉しかったのも自分。そこにファルマンは関係ない。

 愛し子愛し子と口うるさいファルマンに、胸を張って私は私だと言えばいい。そのためにも彼にはもう一度会う必要がある。


(会って文句を言って、私を愛し子に選んだこと後悔させてやる! まずは学園に行ってライラを止めて、それから……)


 後悔させてやる。つまりはファルマンに一矢報いてやりたい。参考までに彼のエンディングを思い出してみよう。


(ファルマンのエンディングは確か――)


 ファルマンの長い孤独を知った主人公。主人公はファルマンと時間が許す限り彼を楽しませることを誓い、幸せそうに手を繋ぐエンディングが流れていた。

 攻略されて多少丸くなって終わるという設定だ。あまり参考にはならなかった。


(無理! 私悪役令嬢だし! いや違うけど、あんな面倒な人の相手は無理!)


 そもそもファルマンを攻略するつもりはない。しかし普通に怒りをぶつけたところで面白がられて終わりか、最悪流されて終わりだ。仮に罪があり裁かれるとしても、それすら退屈しのぎとして受け入れてしまいそうな気がする。


(もっと何か、ファルマンが堪えることでダメージを与えたい)


 イリーナは悩みながらも外へと続く扉を押し開けた。


「あ……」


 門すら遠い侯爵家の敷地。学園までの道のりは遠く、馬車も見当たらない。イリーナは果てしのない距離を前に途方に暮れた。しかも絶望的なまでに道がわからない。


(くっ……タクシーがない!)


 今度こそ元の姿に戻って走るべきか。しかし歩幅が大きくなったところで引きこもりの体力をあてにしてはいけない。


「イリーナ?」


 立ち尽くすイリーナを見つけたオニキスが駆け寄る。ちょうど帰宅したようだ。


「こんなところでどうした? まさか、俺の出迎えか!? そうかそうか、兄は嬉し――」


「兄様馬車は!?」


 感動の出迎えもそこそこにイリーナはオニキスを急かす。するとオニキスは何故か得意げな表情をした。



「聞いてくれイリーナ! 今日は俺も歩いて帰ったんだ。アレンが話していた近道とやらを試してみたんだが、これが思いのほか早く着いてな!」


「どうして今日に限って徒歩なんですか!」


 いきなり怒りを向けられたオニキスは訳も分からず妹に謝った。


「な、何が気に入らなかったんだ? イリーナ?」


「兄様。抱っこして下さい」


 イリーナは両手を広げて兄に強請る。

 オニキスは突如として与えられた至福の権利に疑問を抱くことなく妹を抱き上げた。普段は抱き上げようとしても恥ずかしがってこの腕に納まることを良しとしない妹が自ら……感動に胸が震えていた。幼女の身体ではあるが、オニキスは妹の成長をかみしめる。


「兄様、私を学園まで連れて行って下さい!」


「学園? なあイリーナ。俺は今帰って来たんだが」


「いいから早く! 兄様、ごうっ!」


 ばしばしと背中を叩いて急かされたオニキスは訳もわからず走った。妹に喜んでほしいがために、来たばかりの道を全力で。



 ~☆~★~☆~★~☆~



 オニキスは立派だった。知的な顔立ちにクールな眼差し、それを縁取る眼鏡と、見るからに文系であるオニキスだが、妹のために根性だけで完走したのである。途中に坂や階段が無かったことも完走出来た要因だろう。

 オニキスは学園を前に崩れ落ちた。最愛の妹だけは死守したが、再び立ち上がることは叶わない。イリーナはそんな兄の腕からはい出る。


「兄様、アレン様はどこですか!?」


「あれん? あいつなら……ぜぇ……用があると、言って……どこかは、知らな」


「兄様ありがとうございます!」


「イリーナ!?」


 体力を温存していたイリーナは立つこともままならないオニキスを置いて校舎へ走った。ライラがどこにいるかはわからないが、首謀者がファルマンであれば学園にいるという確信があった。彼なら自分の箱庭で見物することを選ぶ。

 オニキスは妹が迷子にならないよう引き止めようとするが、その手が届くことはなかった。


「どこですか、アレン様!」


 イリーナはゲームで何度となく目にしてきた校舎に飛び込む。下校時刻となって久しい学園に生徒の姿はほとんどなく、静かな校舎は不気味だった。普通の幼女であれば気圧されていただろう。しかしイリーナは果敢に立ち向かう。


「ライラ!? ……どこ? アレン様!」


 いつもは頼んでいなくても傍にいるくせに。会いたい時に限って傍にいてくれない。手を放すと迷子になると言われたけれど、イリーナにとってはアレンの方が迷子だ。こんなことならずっと繋いでいてほしかった。


(早くライラを止めないと!)


 はやる気持ちに足がもつれ、冷たい廊下に倒れ込む。


「ううっ……痛い……」


 イリーナは手を突いて一人で起き上がる。こんなに痛いのも疲れるのもファルマンのせいだ。なんとしても同じ痛みを味わわせてやりたい。


「どこですか、アレン様!」


 もどかしさに、イリーナは泣きそうになりながら探し人の名を呼ぶ。


 ……――ナ。


 ――リーナ。


「アレン様!?」


 自分を呼ぶ声に反応して周囲を見回す。けれど校舎に人影は無い。どこかで校門に置き去りにしてしまった兄が探しているのだろうか。けれど兄の声とも違う気がした。


 ――イリーナ。おいで。こっち、こっちだよ。


 注意して耳を傾けなければ消えてしまいそうに儚い。けれどその何かは必死にイリーナに声を届けようとしている。


「もしかして、これが精霊?」


 自然豊かな学園は精霊が集まりやすい。優しい光はイリーナのそばに寄り添い、励まそうと飛び交った。


「アレン様のこと、教えてくれるの?」


 ――ファルマンの愛し子。こっちだよ!


(本当に私ファルマンの愛し子だったんだ……)


 精霊たちから呼びかけられたイリーナは複雑な気持ちになった。いざ他人から現実を突きつけられると切なさが込み上げる。しかしファルマンから得た力が阻止する糸口になるのなら喜んで使わせてもらう。

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