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悪役令嬢は破滅回避のため幼女になります!  作者: 奏白いずも


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12、今後の相談

「しかしこうなっては明日に控えた学園の入学は難しいですね」


 脱線しかけていた会話に、オニキスの言葉を受けたイリーナは待ってましたと言わんばかりに激しく頭をふって同意する。


(そう! そうなんです兄様!)


 オニキスの懸念を受けた両親も同意見のようだ。

 オリガは困ったように息をはく。


「さっきもお昼寝していたし、学園の授業は厳しいかもしれないわね」


(そうそうこれこれこの展開! 私が待っていたのはこれなんです!)


「とても気持ちよさそうに眠っていたのよ。この年頃だと眠たくなるものなのかしら?」


 オリガは微笑ましいものを見るように目を細めている。


(それはこのところ研究続きでろくに寝ていなかったせいなんですけど、都合が良いので黙っておきますね!)


「オリガの言う通り、この状態での入学は難しいだろう。それにイリーナが若返りの秘薬を生み出したことは伏せた方がいい。あれは人類の夢、作れる者がいると知れれば狙われてもおかしくはない」


「まあ! ただでさえこんなに愛らしいのだから狙われてもおかしくないのに危険よ!」


 ローレンの提案にオリガとオニキスも深く同意を示した。


「俺も賛成です。学園側には体調が芳しくないと言って伏せることにしましょう。幸いイリーナは病気がちだと噂が立っています」


「では校長への対応も、学園のことはお前に任せよう」


 イリーナよりも早く学園に通い始めたオニキスは、学園内でもその地位を確立している。父からの期待にオニキスはしっかりと頷いた。


「さて、これで話はまとまりましたね」


 手を叩いたオリガがイリーナを抱き上げる。


(あれ? なんで私、お母様に抱き上げられてるの?)


「いつまでもそのような格好でいるわけにはいかないでしょう。タバサたちに言って服を用意させています。あなた、オニキス、私たちは少し席を外しますよ」


「そうだな。イリーナを着替えさせてやってくれ。その後は久しぶりにみなで食事をとろう」


「それは素敵な提案ですこと。では急がなければいけませんね。行きますよ、イリーナ」


「はい。お母様」


 慣れ親しんだ家の中だというのにイリーナは子どものように手を引かれていった。

 扉が閉まるとオニキスは改めて驚きを露わにする。


「それにしても本当に驚きました。まさかイリーナにそこまでの才能があったとは。恥ずかしながら、俺はイリーナのことを仕方のない妹だとばかり思っていたんです」


「私も人のことは言えんな。随分と臆病な娘に育ってしまったとばかり思っていたが、娘の才能にも気付けないとはなさけない」


「イリーナは昔から俺たち家族に壁を作っていましたからね。俺たちも必要以上に干渉することを避け、互いに遠慮していたのでしょう」


 先ほど目にした姿より以前、もっと幼かった頃はそうでもなかったように思うが、いつしかイリーナから子どもらしさは消え、家族の前でも怯えがちになっていた。その姿があまりに可哀想で、見ていられないと目をそらしてしまったのかもしれない。


「そういえば話の途中で気になったのですが、研究室というのは?」


「イリーナは倉庫を改造して自前の研究室を持っていたようなんだ」


「我が家にそんなものが!?」


「タバサやみなの力を借りて作り上げたと言っていた。そこで研究資金まで稼いでいたらしく、町の薬屋に商品を納品していたらしい」


「まさかイリーナが自宅にいながら稼ぎを得ていたとは……」


 イリーナが幼女の姿になってからオニキスが帰宅するまで、侯爵邸では当主による使用人の事情聴取が行われていた。そこから明らかになるのはローレンの与り知らぬ事実ばかりであったという。


「それだけではない」


「まだあるんですか!?」


「数年前から人気を博している元気ドリンクがあるだろう」


「疲れた時に飲むと元気が出るというあの?」


「あれを開発したのがイリーナだった」


「なんですって!?」


「レシピを売ることで作り方が広まり、安価での入手を可能にしたようだ。私も仕事が立て込んでいる時に気付けとして服用している。我が家でも箱で定期購入しているが、まさかイリーナが製作に関わっていたとはな」


「俺もテスト前に飲んでいました……」


「料理長も白状した。我が家の食卓に見たこともない料理が並ぶようになったのはイリーナからの情報提供によるものだったとな」


「我が家の生活はイリーナによって支えられていたのか……」


「そう言っても過言はないだろう。イリーナの研究室にはその証拠が全て揃っていた。お前も後で覗いてみるといい。驚くぞ」


「もうすでに驚いてばかりですが、気になるので覗いてみることにします」


「ああ。私たちの知らぬ間にイリーナは随分使用人たちと親しくなっていたようだな」


「本当に、壁を作っていたのは俺たちにだけだったんですね」


 口にすると急に寂しさが込み上げるような、切ない気分になる。仕切り直すべくオニキスは今後についての考えを巡らせた。


「学園にも秘密にしておくとして、この件はアレンにも秘密にしておきますか?」


 思い出されるのは妹のことを気に掛けている婚約者候補の存在だ。先ほどまで一緒にいただけに、学園で顔を合わせたら何か聞かれるかもしれない。


「アレン殿下か……あの方はイリーナの婚約者候補ではあるが、秘密を知る人間は最小限に留めたい」


 ローレンは躊躇いながらも決断を下す。


「イリーナの研究成果だが、あれが明るみに出ればこの国の魔法史は大きく変わるだろう。あの子にはそれほどの価値がある。王家もイリーナがここまでの魔女だと知れば何を言うか想像がつかん。それもイリーナはあの姿だ。このままでは他人に利用されることもあるだろう。我々で守る必要がある」


 優れた魔女であればアレンの婚約者として重宝される。しかし利用されるだけというのなら親として黙ってはいられない。幼子に戻ったイリーナにはまだ善悪の区別がつかないはずだ。


「わかりました。父さんの判断に従います。俺もあいつが悲しむような結果は望みません。それはそうと」


 オニキスは扉の方に視線を向ける。


「なんだ?」


「随分と遅くありませんか?」


 イリーナとオリガが姿を消してから一時間が経とうとしていた。

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