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悪役令嬢は破滅回避のため幼女になります!  作者: 奏白いずも


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11、緊急家族会議

 魔法学園に通うオニキス・バートリスの元に家からの使いが訪ねてきたのは学友のアレンと授業についての相談をしていた時のことだった。父の命により至急帰宅してほしいらしく、とても大切な話があるそうだ。

 アレンに断りを入れたオニキスは素早く馬車に乗り込む。いつもより短い時間で家まで運ばれると執事によって家族の談話室へと案内された。


(家族の集まりか)


 納得すると同時に疑問が浮かぶ。


「なあ、あいつもいるのか?」


 あいつとは、六歳の頃から引きこもるようになった妹のことだ。ここ数年は顔を会わせることも減り、最後に会話をしたことさえいつだったか思い出せない。だが家族の集まりというからにはイリーナも出席する必要があるだろう。あの妹がきちんと出席できるのか疑問だった。何しろ自分は顔を合わせるなり逃げ出されている。


「お嬢様は……」


 言い淀む執事を前に落胆する。きっとイリーナは出席したくないと我儘を言って困らせたのだろう。こうして執事が視線を泳がせているのがいい証拠だ。


「まったく困った妹だよ」


 呆れながら部屋に入ったオニキスを待ち構えていたのは両親と見知らぬ子どもだった。

 父ローレンは当主として部屋の奥に。母はテーブルを囲むように置かれた長椅子に腰かけていて、隣の子どもはオレンジジュースとクッキーでもてなされていた。

 六歳くらいだろうか。サイズの合わない服を着ているが、身なりは整っている。美しく伸びた黒髪が印象的な、どことなく両親の面影を感じさせる子だ。

 その光景を目にした瞬間、オニキスは理解する。


「父さん、母さん。それに、その子は……!」


 全てを察したオニキスの態度にオリガは頷き、痛ましそうに目を伏せる。


「やはり兄妹なのですね。貴方も察しましたか。そう、この子は貴方の妹っ!」


「やはりそうでしたか……父さん、いや母さんが!?」


「は?」


「一体誰の子です。この隠し子は!」


 イリーナを含め全員の目が点になった瞬間である。



 ~☆~★~☆~★~☆~ 



(もしかして私、どちらかの隠し子だと思われてます?)


 固まった場の空気をものともせず、オニキスは続けた。


「みなまで言わずとも結構です。イリーナは真実に耐えかねて部屋を出て行ったのですね」


 真実ってなんだ。イリーナは冷静に兄を見つめていた。その視線を受けたオニキスは辛そうに顔をゆがめているが、我に返った両親たちの一斉攻撃にあう。


「そんなわけがあるか! 私が愛しているのはオリガただ一人だ!」


「私だって旦那様一筋に決まっています!」


(あ、ちゃんと愛し合っていたんですね。父様と母様って)


 イリーナは座席から二人の親を見比べた。ゲームでは厳格な両親としか描かれていなかった二人だが、心はしっかりと通じ合っていたらしい。予想もしない形ではあるが、気持ちを知ることが出来て良かったと思う。


「で、では、その子は一体!」


 納得のいかないオニキスはオリガに食い下がった。


「だから貴方の妹だと言っているでしょうに!」


 話が通じず、オリガは苛立っていた。しかしオニキスには未だに理解が及ばない。


「俺の妹はイリーナただ一人ですが、あいつは十七で……いやまさか、これがイリーナだと?」


 イリーナは肯定するように頷いた。


「イリーナ? お前まさか、引きこもりの影響でそこまで不健康に!?」


「違いますよ!」


 不健康で幼女になれるのならイリーナに苦労はなかった。あんな不味い薬を飲み干す必要もなかった。


「じゃあどうしたっていうんだ! このところは顔を合わせていなかったとはいえ、変わりすぎだろう。どう見ても十七とは思えない」


 未だ疑うオニキスに告げられたのは驚愕の事実だった。


「信じられない。まさかイリーナが? あいつにそれほどの才能があったなんて……」


 オニキスにとってイリーナは内向的な妹だった。部屋に閉じこもって大人を困らせ、自分の顔を見るなり逃げ出す臆病な人間。その妹が突然若返りの薬を完成させたと言われても理解が追いつかないのだ。


(ふふん! どうよ兄様!)


 イリーナは兄に向かって胸を張る。攻略対象や家族には苦手意識のあるイリーナだが、褒められるのは素直に嬉しかった。


「それでイリーナは、元には戻ることは出来ないのですか!?」


 息子の問いかけにローレンは重い口を開いた。幼女化したイリーナを除けばこの中で最も魔法に詳しいのはローレンだ。


「どうもイリーナには記憶の欠落があるようでな。我々もイリーナの研究室を調べてはみたが、あれは我々の手に負える代物ではなかった。若返りの薬についての記述も確認することは出来ていない」


 もちろん幼女化についての記述を全て破棄したのはイリーナだ。


「私としてもイリーナを元に戻すため力は尽くすが、いずれにしろすぐには難しいだろう。イリーナ自身の助けもなしにどこまで研究を進められるかもわからない」


 結論を聞いたオニキスは目に見えて落ち込んでいく。その理由がわからずイリーナは兄の傍へと歩いて行った。


「兄様?」


 無邪気なふりをして首を傾げると、オニキスは泣きそうに瞳を歪める。


「すまないイリーナ。力の及ばない兄で……」


「兄様?」


「俺はお前を誤解していた。兄失格だ。最後にお前と会話をしたことさえ思い出せない、どうしようもない兄だった。だがお前は違った。素晴らしい魔女だ。今更と思われるかもしれないが、俺はお前を誇らしく思う。自慢の妹だ。それが、それがこんなことになるなんて……っ!」


「オニキス、私たちも同じ思いよ」


 息子の悲壮な表情にオリガまで涙ぐむ。席を立ったローレンが家族に寄り添った。微笑ましい家族の集まりだが、あまりの悲痛さにイリーナは唖然とする。


(なんか私死んだような雰囲気なんですけど、ちょっと若返っただけですよ?)


 感動的な場面を見せられるほど、イリーナの心は渇いていった。


「あの……」


 イリーナの声に視線が集まる。


「イリーナは大丈夫ですよ? いつか元に戻る薬を作ります」


 嘘ではない。薬の作り方は完璧に憶えているし、元に戻る薬は用意もしてある。だがイリーナにはあと数年元に戻るつもりがないだけだ。


(私は主人公が学園を卒業してからゆっくり第二の人生を始めるのよ!)


 イリーナは幼い身体で精一杯微笑む。そう、幼女化に成功した自分に怖いものはない。攻略対象の兄にも、その家族にも微笑める余裕が生まれていた。


「イリーナったら、あぁっ! 貴女、私たちを安心させようと無理をして!」


「え? え?」


 感極まったオリガはハンカチで口元を覆う。


「なんて健気なんだ……」


 呟いたオニキスにオリガは何度も同意していた。

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― 新着の感想 ―
なんだろうなぁ、兄の掌返しがモヤッと つまり兄様は妹が無能で迷惑しかかけない家にいらない愚妹だと思ってたから冷たい扱いしてたわけなんでしょ? だけど実は若返りの薬を作れる程の天才であると解った途端に…
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