話しやすいは褒め言葉?
『らっしゃーせぇーぃ』
コンビニに到着。
やる気のないバイト店員の声を聞きながら、ドリンクコーナーへ。
「あった……5本くらいで良いかな。」
日曜は朝昼晩で3本は飲む。
月曜の朝晩も考えると……もうちょい買っとこう。
僕は10本の缶コーラをカゴに入れてレジに持って行った。
バイト店員が僕の顔とカゴを二度見する。
僕は特に反応せず普通に会計した。
マンションのエントランスで鍵を挿して扉を開ける。
中に入ってエレベーターのボタンを押した。
上の方にいっていたエレベーターが下りてくるのを待っていると、駐車場側の扉がガチャッと開かれた。
入ってきたのは我が校の誇るクールビューティー。
細身のデニムパンツに白Tシャツ、そして大きめのカーディガンを羽織っている。
ドルマンニットとかいうやつだろうか。
レザーのトートバッグを肩に掛け、手には紙袋とビニール袋を持った冴木先生であった。
先生はエレベーターを待っている僕の顔を見て、目を丸くした。
「…こんばんは。」
「こ、こんばんは長谷川君。」
なんだろう…何故か気まずい。
学校で目が合ったと思ったらそらされた記憶がフラッシュバック。
それを掻き消すように口を開いた。
「えっと……お出掛け帰りですか?」
何を聞いてるんだ。
見ればわかるだろ。
「えぇ、ちょっと買い物に。」
「そうですか…車ですか?」
駐車場の扉に目を向ける。
「そうよ。」
「そうですか。」
そうですか………
話終わったわ。
あ、ちょうどエレベーターきた。
エレベーター内に冴木先生と2人。
僕は8階、先生は9階。
長い沈黙だ。
「……っ…」
後ろから何か言おうとした気配を感じた。
チラッと後ろを見る。
先生がモゾモゾしながらこちらをチラチラ見ていた。
「あの、どうかしましたか?」
「え、あ、その……」
先生は小さく俯いた後、パッと顔を上げた。
「き、今日…冷たくしちゃって…ごめんなさい。」
「え……」
「学校だからあんまり話すと変だと思って……でも、ご馳走になった立場であの態度はあんまりだと…反省してるわ。」
クールなお顔がしょんぼりしている。
なにそれ、可愛い。
「い、いえ、僕は気にしてませんから。」
嘘です。
めちゃくちゃ気にしてました。
「というか、僕よりむしろ野口の方が……」
冷たくされてましたよね。
と言おうとしたが、これではまるで先生を責めてるみたいじゃないか。
何と言って良いかわからず、あーとかうーとか言っていると、その先を察した先生が苦笑いした。
「野口君って、長谷川君の前にいた子よね?」
「あ、はいそうです。」
「彼には、悪い事をしたわね。」
先生が弱々しく笑う。
「それは……まぁ、野口は先生と話せただけで嬉しそうでしたし。」
これは本当。
気持ち悪いくらいニヤニヤしてた。
というか気持ち悪かった。
「……私なんかと話しても何も楽しくないでしょうに。」
「え?」
「私は人と話すの苦手だし、愛想も悪いし、リアクションも薄いし、面白い事も言えないもの……だから、近付きすぎない方が良いのよ。」
……野口が嫌だから冷たくしてたわけじゃなかったんだ。
ただ一緒にいても楽しめないだろうと気を遣ってただけ?
だから食事を断った?
「でも先生、こうして話してる分には普通に話せてるじゃないですか。話すのが苦手とか愛想が悪いとか、僕は特に気になりませんけど。」
「長谷川君は……話しやすいから。」
なにそれ。
僕って癒し系だったの?
「えっと……褒められてます?」
「勿論よ。自慢じゃないけど、私がこうやって普通に話せる相手は数える程しかいないわ。」
本当に自慢じゃない。
何で胸張ってるんですか。
もっと張って下さい。
「それにほら、長谷川君って何だかちっちゃくて可愛いから……あっ」
「ぐっ……」
冴木先生ェ……人が気にしている事を……
いや、そこまで小さくないから。
これでも155cmは超えてるから。
高校卒業時には160cm突入してる予定だし。
「ご、ごめんなさい。気にしてたのね。」
「うっ……べ、別に良いです。」
「ま、まぁ…身長は抜きにしても、話しやすい雰囲気はあると思うわよ。じゃないと私がこんなに普通に話せるはずないもの。しかもまだ知り合ったばかりで。」
ふぅむ。
先生はそんなに人見知りだったのか。
というか学校でのクールな態度って人見知りしてたの?
そこからビックリなんだけど。
「そうなんですかねぇ……」
「今までにも同じような事言われた経験あるんじゃない?」
「いや、そんな事……ありました。」
何度かあったわ。
むしろ小中高と色んな人から言われ続けてる気がする。
「長谷川って小動物みたいで話しやすいよね。ほら、犬猫に悩み打ち明けちゃうみたいな。」って誰かに言われたなぁ。
……やっぱ小さいからなの。
よろしい ならば戦争だ。
怒りに燃えた僕なら真紅の吸血鬼だって5回くらい殺せるかもしれない。
あ、8階着いた。
「えっと……それじゃ先生、また……」
「ちょっと待って。」
冴木先生に袖を掴まれた。
「どうしました?」
「その……もうちょっと、話せないかしら…?」
えっ………可愛い。
「ちなみに先生、授業中は特に厳しいですよね。」
「え?そう?」
「だって野口の質問とか全部流してたじゃないですか。」
「授業中なんだから当然よ。」
あ、そこは普通に真面目なのね。