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終業式

年末に夏休みに入る話を書くというこの違和感よ

「ーーーというわけで、夏休みだからって羽目を外さないようにな。それじゃ気をつけて帰るように。」


担任教師がHRの終了を告げ、生徒達がおざなりな挨拶と礼をする。

先生が退室した後、教室には何とも言えない解放感が満ち溢れていた。


「ふぅ……」


僕は気が抜けたように息を吐き、椅子に座る。

今日は1学期の終業式が行われた。

明日から待ちに待った夏休みである。



「長谷川、まだ帰らないのか?」


スクールバッグとは別にスポーティーなリュックを背負った野口が話しかけてきた。

今更だけど野口は野球部だ。

きっと今から部室へ向かうんだろう。


「いや、帰るよ。」


返事をしつつ荷物を纏める。

家に帰ったらとりあえずぐーたらしようと思いながら席を立つ。


「途中まで一緒に行こうぜ。」


「良いよ。」


僕は野口と連れ立って教室を後にした。





「そういや、長谷川は夏休みの予定とか何かあんのか?」


「んー……そこそこ決まってるかな。」


ボクシングの練習や合宿、ツーリング、動画の撮影、クラスメイトとの遊び……結構色々あるな。


「充実してそうで良いなぁ。」


野口が遠い目をしている。

可哀想に…野球部はほぼ毎日練習だろう。

まぁ、それも青春ってやつじゃないかな。


「野口も予定は埋まってるんじゃないの?部活以外にもさ。」


野口は気さくな性格故か友達が多い。

教室でも夏休み中の遊びのお誘いを受けているのを何度も見ていた。


「海とかキャンプとかも行くつもりだぜ。その為にも部活頑張らないとな。」


海は僕も行くやつだろうね。

クラスメイトでなるべく集まって海に行こうって話なんだ。

今のところ僕も行ける予定である。






靴箱に到着。


「今年の夏こそは女の子と熱く燃え上がってみせるぜ!」


「はいはい、頑張ってね。」


去年もそんな事言ってなかったっけ。

結局部活で汗を流すだけの夏休みだったはずだけど。


「何だよ冷てーなぁ。長谷川もビーチギャルを捕まえようぜぇ。」


「海には女子も来るはずだけど……」


クラスの女子の前でナンパでもするつもりなのかな。

猛者だ。

僕は田所さんに睨まれるのを想像しただけでもう無理なんだけど。


「つまりクラスメイトから選べって事だな。」


「いや、そんなの一言も言ってないよ。」


何がつまりなの。

と呆れながら靴を履き替えていると、外からヒョコっとこちらを伺う女の子の姿。



「あれ、泰野さん。」


「あっ、長谷川くん!」


泰野さんがパァッと笑って出てきた。

そんな所で何してたんだろう。


「おっ、泰野さん。ちーっす!」


「野口くん、こんにちは。」


野口と泰野さんが挨拶を交わす。



「えっと…2人はいま帰りなのかな?」


「僕はそうだよ。野口は部活だけどね。」


「そうなんだ…頑張ってね!」


「うっひょぉ!泰野さんに応援してもらえるなら何でもやれるぜぇ!そんじゃ、俺は行くから。じゃあな!!」


ハイテンションな野口が走って外へ行く。

ノリで動いているように見えて、気を遣ったんだろうなぁ。



「さて……泰野さんも今から帰り?」


「うん、そうだよ。……その、良かったら一緒に帰らない…かな。」


泰野さんの上目遣い…良いね。


「勿論構わないよ。」


「ありがとう!」


輝くような笑顔を浮かべる泰野さん。

夏休み前って事で幾つかの告白をされたりしたそうだけど、誰かと付き合ったという話は聞いていない。






「やっと夏休みだね。」


「そうだね。1学期は特に何もなかったから、長く感じたなぁ。」


「行事もそんなに無かったもんね。」


「あったとすれば体育祭くらいかな。」


「体育祭……っ!」


泰野さんが体育祭というワードで顔を赤くする。

彼女はまだあの時の事を気にしているらしかった。



「あ、あの時はほんとにありがとね…」


恥じらうようにモジモジしている。


「お礼は何度も聞いたよ。もう気にしないで。」


「で、でも…私が倒れたせいで長谷川くん大変だったって友達に聞いて……」


「それを言うなら泰野さんの方が冷やかされたりして面倒だったでしょ。」


体育祭で起きた例の熱中症事件。

僕が泰野さんを保健室に運ぶ姿をスマホで撮影していた人がいたようで、その動画が生徒達に拡散されたのだ。

お陰で知らない人から絡まれたりもしたけど、野口を筆頭にクラスメイト達が守ってくれた。


闇討ち紛いの事もされたけど、軽くあしらってあげたらもう来なくなった。

それ以来、何故か泰野さんファンの過激派の間で、僕が危険人物みたいに扱われているそうだ。

ちなみにその噂は野口から聞いた。

野口は泰野さんファンクラブの保守(見守り)派に所属しているらしい。

初めて聞いたんだけど。



「わ、私は別に、その……む、むしろちょっと嬉しかったり…」


「そ、そっか……」


それはどういう感情なんだろう。

僕にはまだわかんないや。


「とにかく、明日からの夏休み、楽しみだね。」


ちょっと強引だけど話を変えよう。



「そうだね!長谷川くんは、色々と予定があったりするのかな?」


「そこそこ埋まってるかなぁ。」


「例えば何するの?」


「クラスメイトと海に行ったり、ジムで練習したり、ツーリングしたりかな。」


泰野さんには以前、ボクシングをしている事とバイクに乗る事は教えている。

趣味とかの質問を受けて答えたのだが、あの時は凄く驚かれた。


「そっかぁ……結構毎日予定があるの?」


「毎日って程じゃないよ。」


動画の編集作業もあるし、体を休める時間も必要だからね。



「その、もし良かったら……」


泰野さんが赤面してモジモジしながら言う。


「一回、くらい……会えない、かな…?」


ちっくしょう可愛い。

これ断れる人とかいる?


「良いよ。そんなに予約パンパンに詰まってるわけでもないし。」


「ほ、ほんとっ!?」


一瞬で表情が明るくなる。

ここで嘘つくような鬼畜じゃないよ僕は。


というわけで、夏休みの予定がまた1つ決まるのであった。

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